2022 Fiscal Year Research-status Report
植民地期李王家の神聖空間に対する同時代的認識の研究-李王家陵園墓の検討を中心に
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18K12523
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
橋本 妹里 京都府立大学, 文学部, 研究員 (60814308)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 李王家 / 李王職 / 陵園墓 / 孝昌園 / 朝鮮貴族会 / 普植園 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、前年度の研究成果を基盤に、韓国学中央研究院蔵書閣所蔵の資料『陵園墓遷奉案』の分析を中心に研究を進めた。 『陵園墓遷奉案』は、李王職が作成した1930~1944年までの陵園墓の移葬に関する文書綴である。第1~6回までの陵園墓の移葬計画案、新設墓の設計図案、予算概算書、移葬の儀式の手順や移動時の行列図など、各種文書が収められている。この資料から、1930~1944年にかけて、①位寘(=位置)不適当、②発展地将来守護不可能、③現公園地守護不可能、④その他(「仮葬地不完全」)を表向きの理由として、京城府内とその近郊に散在する陵園墓が、順次高陽郡所在の西三陵に移葬された過程の詳細が確認された。また、これと合わせて、王の陵と離れて位置する王妃の陵を、王の陵と合葬する計画も立てられていたことが確認された。 従来韓国おいて、陵園墓の西三陵への移葬については、日本による「民族精神抹殺」の文脈で説明されてきた。しかし前年度までの研究成果から、陵園墓移葬に先立つ1927~1930年にかけて、「管理上不便」を理由に、各地に点在する胎封(王の臍の緒を奉安した所)を西三陵に移転し、その付属林野を売却して、林野経営のための新たな林野購入費に充てていた事実が確認できたことから、陵園墓移葬もまた李王家の林野経営の一環として行われたと考えられる。 以上の成果を中心に、前年度までの研究成果と合わせて、2022年度は2回の学会報告を実施した。また、韓国での現地踏査を実施し、2019年度訪問時は非公開であった西三陵の胎封および各所から移葬された王子・王女墓、后宮墓を見学し、胎封・墓が本来の位置にあった際の形そのままではなく、極めて簡易的な形式で埋められ整備された様相を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度は、これまでの研究成果に関する論文執筆を進めていたが、確認すべきいくつかの資料が国内では閲覧できず、年度中に完成させることができなかった。 年度末に韓国への現地踏査とともに資料収集を実施し、必要な資料を入手できたため、今年度は滞っていた論文執筆も並行して研究を進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
現在韓国において、「民族精神抹殺」を目的とするものと、強く非難されている胎封および陵園墓の移転であるが、当時の新聞記事からは、わずか胎奉の移転に際して、王家の同族である全州李氏宗中から、非難の声が上がったことが確認されるのみである。2021年度研究成果で確認した、李王家所有地の私的財産としての性格と、李王家の林業経営における公的なふるまいとの間のギャップを考察するに当たって、この点は非常に注目すべきである。今年度はこの事例に関する考察を中心として、本研究の目的である李王家の象徴空間に対する同時代人の認識について、整理していきたい。
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Causes of Carryover |
2022年度は国外への移動制限も緩和され、年度末には韓国への渡航も実施できたが、年度の大部分は研究活動が制限され、前年度同様支出の発生は少額となった。
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Research Products
(2 results)