2020 Fiscal Year Research-status Report
近代中国ムスリムの起源説話とアイデンティティ形成:民族政策への影響を中心に
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18K12525
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
海野 典子 中央大学, 文学部, 特別研究員(PD) (30815759)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 回族 / 中国 / 民族政策 / イスラーム / 起源説話 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の予定では、2020年度は、漢語を話すムスリムの起源説話が20世紀前半に「史実」として認定されるに至った経緯、及び起源説話の政治的役割を明らかにすることを目標としていた。また、起源説話に関する書籍が多数刊行された北京・天津・上海で資料収集を行うはずであった。しかし、新型コロナウイルスの影響により出張や図書館の利用を断念せざるを得なかったため、すでに手元にある史料を精読することに時間を割いた。その結果、ムスリムの起源説話が中国の民族政策に大きな影響を及ぼしたことを明らかにした。1930年代末以降、ムスリムが集住する中国西北地域を拠点としていた中国共産党は、ムスリムの懐柔を試みる際、彼らを「漢人回教徒」、すなわち漢人の宗教集団と見なす国民党とは異なる方針を採用した。共産党は、ムスリムの起源説話に依拠して、彼らを漢人とは区別される血筋や歴史をもつ単一の「民族」と認定したのである。一部のムスリム・エリートもまた、「民族」としての正当性を政治権力に訴える際、起源説話を論拠の一つとした。 先行研究によれば、1930、40年代の中国共産党のムスリムに対する各種の政策は、今日の中華人民共和国における民族政策の基礎を作った。したがって、ムスリムが歴史観や自他認識を構築する上で大きな役割を果たしてきた起源説話は、近現代中国の民族政策を理解するための手がかりの一つとしても重要であると言えよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルスの影響により出張や図書館の利用が制限されたため、当初予定していた資料調査を行うことができなかった。だが、すでに手元にある史料を分析することによって、当該年度の研究をある程度進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる2021年度は、現代中国の回族社会において起源説話がどのように受容されているのかについてフィールドワークを行う予定であったが、新型コロナウイルスの影響が長引いており、年度内の国外出張は依然として難しいのではないかと思われる。そこで、引き続き手元にある史料を読み進めながら、社会的立場や居住地域による違いによる、起源説話に対するムスリムの関心や理解の多様なあり方を検討していく。その際、必要に応じて、海外の書店から書籍を取り寄せる、海外在住の研究者やインフォーマントが所蔵する資料を閲覧させてもらうなどして、柔軟に対応したい。
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Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナウイルスの影響により国内外の出張が困難であり、海外の書店から書籍を取り寄せるのに通常よりも時間がかかりそうであったため、研究費を使用することができず、当該助成金が生じた。2021年度は可能であれば日本国内で出張を行うとともに、海外の書店から書籍を購入する予定である。
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