2021 Fiscal Year Research-status Report
近代中国ムスリムの起源説話とアイデンティティ形成:民族政策への影響を中心に
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18K12525
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
海野 典子 早稲田大学, 高等研究所, 講師(任期付) (30815759)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 回族 / 中国 / イスラーム / 民族政策 / 起源説話 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、これまでの研究実績(近代中国における回民の起源説話の語られ方、彼らの歴史認識や諸政治権力の民族政策への影響)を踏まえながら、現代中国の回族社会において起源説話がどのように受容されているのかについて調べた。 もともとは中国でフィールドワークを行う予定であったが、新型コロナウイルスの影響が長引いており、国外出張を実現させることができなかった。そのため、引き続き手元にある史料を読み進めるとともに、回族のインフォーマントにオンラインでインタビューをしながら、居住地域や社会的立場の違いによる、起源説話に対するムスリムの関心や理解の多様なあり方を検討した。 その結果、以下の3点を明らかにすることができた。(1)祖先崇拝や族譜作成の伝統が色濃く残っている福建・広東地域では、外来ムスリムの末裔であるという意識や血族としての一体感が特に強い。ただし、このことは、彼ら自身がイスラームを日頃実践していることを必ずしも意味しない。なお、近代の華北地域の回民のなかでも広東にルーツを持つ一族は、唐宋代に来華したムスリムの末裔であることを誇りに思っていた。(2)Maria Jaschokと水鏡君による先行研究によれば、外部から嫁いできた女性は宗族(父系親族集団)の正式な一員ではなく族譜に記載されることがないため、外来ムスリムの末裔であることではなく自身の信仰をアイデンティティのよりどころにする傾向がある。たしかに本研究でもそのような傾向がある程度確認されたが、より多くの事例を精査する必要がある。(3)読書が趣味など歴史に造詣の深い回族のなかには、起源説話の内容に詳しい人が多く見られた。だが、当局への配慮からか、回族とアラビア半島との歴史的つながりはあくまでも過去のものであり、起源説話は創作物に過ぎないと主張する人もいた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの影響により出張や図書館の利用が制限されたため、当初予定していた資料調査を行うことができなかった。すでに手元にある史料を分析することに専念したが、オンラインでのインタビュー調査には限界があり、研究の遅れを感じている。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルスの収束後、中国に渡航して資料調査や対面でのインタビュー調査を実施することを希望している。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により出張がキャンセルされたため。出張が可能になれば、旅費の一部として使用したい。出張が難しければ、研究書の購入費として使用する予定である。
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