2019 Fiscal Year Research-status Report
第二次世界大戦後のアメリカ合衆国を軸とした人道援助と福祉思想の国際連環
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18K12534
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Research Institution | Kanto Gakuin University |
Principal Investigator |
小滝 陽 関東学院大学, 国際文化学部, 講師 (00801185)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 福祉 / 難民 / 第二次世界大戦 / 冷戦 / 人道援助 / 人権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、第二次世界大戦から1960年代にかけて、欧州・アジア・アメリカ合衆国で実施された一連の人道援助事業を分析し、「自助」と「自立」を求める福祉思想のトランスナショナルな形成過程を明らかにする。2019年度は主に、(1)キューバ難民のアメリカ受入時における福祉プログラムの展開を前年度に収集済みの史料から分析して学会で発表した後、(2)世界大戦後の欧州難民救援事業の史料を収集し論文にまとめた。
(1)について。2019年6月に実施されたアメリカ学会大会および、2019年11月に開催された国際学会 American Studies Association の年次大会で報告し、1960年代に国際的な難民援助プログラムのなかで形成された人道援助のパターナリズムが、1960年代のアメリカにおける「ワークフェア」福祉改革に及ぼした影響を論じた。ここでのコメントや質問を踏まえた発展的内容を(2)で挙げる論文に盛り込んだほか、現在出版計画中の研究書(共著)にも反映させる。
(2)について。国際機関による難民の自立支援事業と再定住事業の実態を把握するべく、フランス・アメリカの公文書館を訪問し、史料調査を行った。そこで、1940年代の人道と人権にかかわる国際的な文書の内容を精査し、(1)の研究成果と総合し、以下を明らかにした。すなわち、第二次世界大戦後の欧州と、1960年代のフロリダ州では、難民に対する福祉提供を止めて、彼らに就労を強制する試みがなされたが、いずれに対しても難民の「権利」(人権/福祉権)を侵害するとの批判が集まった。これらの事例分析により、難民援助を基礎づける人道主義と、人権の言葉の衝突が浮き彫りになった。上記の成果をまとめた論文が近日中に学術誌に掲載予定である。なお、2019年9月には、世界大戦後の欧州における難民援助を扱った英語の先行研究を日本語に翻訳・出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2年目にあたる2019年度は、前年度同様、海外での史料調査を実施したほか、研究成果を論文にまとめた。これは近日刊行予定である。また、6月と11月の学会報告では、パネルの司会者、討論者、聴衆のコメントから今後の研究展望に関わる重要な示唆を得ることができた。さらに、学会報告および論文の準備過程では、発表の草稿に対して、アメリカ史研究者数人から建設的なコメントを得ている。ここまでの作業により、第二次世界大戦後の欧州からアメリカに向かう福祉思想の国際伝播、合衆国の福祉改革に対するその影響など、本研究が解き明かそうとする大きな問いへの答えが見えてきた。今後はこれらの研究成果を学会報告・論文の形で、さらに幅広く発信するとともに、本研究のもう一つの課題である、冷戦期アジアにおける福祉思想の形成と、そのアメリカへの影響の考察を本格化させる。なお、2020年の3月に実施を予定していたフランスでの史料調査を、感染症拡大により断念したため、本年度の研究成果の補足と、来年度研究計画の準備調査に若干の遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、前年度から引き続き海外での史料調査を実施する予定であったが、国内外における感染症拡大のため海外渡航が困難になるものと予想される。そこで、2020年度は主に、これまでの調査結果をまとめた論文や学会報告の発表準備を進める。なお、2020年度の研究課題としていた冷戦期アジアにおけるアメリカ人福祉専門家の活動と、彼らの福祉思想形成については、史料へのアクセス状況も踏まえ、従来予定していた南アジアでの活動ではなく、韓国における活動に焦点を当てた調査に切り替える。ただし、これも史料調査のための海外渡航が難しいので、関連する先行研究や電子化された史料群の収集・分析を中心とせざるを得ない。当初に予定した史料調査を完遂するため、研究期間の延長を申請するか否かについては、今後の状況の変化も見つつ適時に検討する。
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Causes of Carryover |
ヨーロッパで新型コロナウィルス感染症が拡大する状況を考慮し、2019年度の3月に実施を予定していた海外での史料調査を中止したため、予定した渡航費用に多額の未使用分が生じた。次年度は、研究成果をまとめるにあたり必要な図書やマイクロ資料の購入を積極的に行う予定である。
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