2020 Fiscal Year Research-status Report
第二次世界大戦後のアメリカ合衆国を軸とした人道援助と福祉思想の国際連環
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18K12534
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Research Institution | Kanto Gakuin University |
Principal Investigator |
小滝 陽 関東学院大学, 国際文化学部, 講師 (00801185)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 人道主義 / 人権 / 難民 / 社会福祉 / 労働 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、第二次世界大戦(以下、大戦)から1960年代にかけて、アメリカ合衆国(以下、米国)・欧州・アジアで実施された一連の人道援助事業に焦点を当て、国境を越えた福祉思想の連関を解明することを目的としている。これを踏まえ2020年度は、大戦直後のヨーロッパで実施された難民支援と1960年代初頭に米国内で実施されたキューバ難民への支援の間に、福祉思想の面でどのような関連が認められるか、人道主義と人権擁護の法規範との緊張関係に着目して分析を行った。 分析の結果、以下の点が明らかになった。大戦後の欧州復興において難民に対する就労支援とのつながりを強めた人道主義は、職業選択をはじめとする難民の自己決定を擁護する国際人権法に抵触するものと見なされた。これにより生じた人道と人権という二つの論理の衝突は、ひとまず難民を労働力化したいドイツ占領軍政府の便宜に配慮し、前者の論理を優先する形で決着が図られた。しかし、1960年代に入ると、同様の問題はキューバ革命後に米国フロリダ州に到来した難民への支援において、再燃する。キューバ難民の女性に公的扶助からの離脱を強制する米国政府のプログラムに対し、同時期に盛り上がりを見せていた福祉権擁護の論理が対峙したのである。 2020年度、研究代表者は上記の考察内容の一部を論文にまとめ、学術誌に発表した。当該学術誌では「人道と人権」をテーマとする歴史学研究についての特集が組まれており、本論文はその一部となった。福祉という観点から人道と人権の相克を描く視座を示した点、さらに、そうした相克が時代と国境を越えて連鎖することを示した点において、上記の考察は大きな学術的意義を持つものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度終了時の計画では、パキスタンで国際連合が実施した社会福祉プログラムをこれに参加したアフリカ系アメリカ人ソーシャルワーカーの視点から考察するため、2020年度に史料調査を実施することとしていた。また、大戦後の欧州における難民援助を福祉プログラムの視点から分析するため、フランス国立公文書館で追加の史料調査を行うことも計画していた。 しかし、新型コロナウィルス感染症の世界的な拡大に伴い海外での史料調査が実施困難となったため、2020年度はすでに収集済みの史料に依拠して分析を深めることに専念せざるを得なかった。(なお年度当初は史料へのアクセスが困難なパキスタンについてではなく、アメリカ・国連による韓国での福祉支援の分析を行うことも計画したが、やはり感染症拡大による渡航の制限で果たされなかった。) 結果としては、欧州難民援助とキューバ難民援助の実態をこれまで以上に詳しく明らかにできたほか、両者がベトナム共和国(南ベトナム)における米国の難民援助に与えた影響にも考察を広げることができたため、研究に一定の進展を見た。これらの成果については、2021年度以降に学術論文等の形で発表できるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度においては、新型コロナウィルスの国内外における感染状況を注視しつつ、可能であれば海外での史料調査を実施して、研究計画の遂行を目指す。とりわけ、1950年代初頭のパキスタンにおける福祉プログラムの分析については、史料調査が可能となり次第、優先的に進捗させたい。あわせて、同時期のインド北部で実施された国際連合の福祉プログラムについても、パキスタンの事例と関連する対照事例として史料調査を実施することを計画している。もし、海外渡航がかなわない場合には、マイクロ化された史料や複写資料の海外からの取り寄せといった形での史料収集も検討する。 仮に上記のような方策を用いても史料収集が困難となった際には、すでに収集済みの史料を用いた分析を論文や学会報告の形で発表することに集中せざるを得ないが、その場合には網羅的な先行研究の収集と、それを踏まえた研究史の再検討を行い、より学術的な意義の大きい議論の構築に努める。
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Causes of Carryover |
2020年度は世界的な新型コロナウィルス感染症の流行により、海外渡航が困難であった。このため年度当初に予定していたアメリカ合衆国およびフランスでの史料調査を断念せざるを得なかった。これにより、予定していた旅費の支出がなされなかったため、上記の次年度使用額が生じた。 2021年度については、引き続き感染症の流行状況を見極めつつ上記史料調査計画の遂行の可能性を探り、できるだけ多くの史料を収集して研究計画を完成させる。ただし、2021年度も海外渡航が困難となった場合には、書籍・論文や海外文書館での複写サービス等を使用して研究に必要な史料を入手する方法を検討する。その場合、旅費以外の支出費目が当初の計画よりも大きくなる可能性がある。
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