2021 Fiscal Year Research-status Report
第二次世界大戦後のアメリカ合衆国を軸とした人道援助と福祉思想の国際連環
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18K12534
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Research Institution | Kanto Gakuin University |
Principal Investigator |
小滝 陽 関東学院大学, 国際文化学部, 准教授 (00801185)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アメリカ合衆国 / 福祉思想 / 冷戦 / 難民援助 / 人道 / 人権 / リハビリテーション |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は学術誌(紀要)への論文掲載1点、共著書籍への論文掲載1点の計2点が主たる研究成果であった。新型コロナウィルス感染症の流行に伴って海外渡航の実施が難しくなる中、主として過去に収集済みの史料を本研究の目的と問題関心に沿って整理・分析し、論文にまとめた。 上記2論文の内容であるが、いずれも、1960年代にアメリカ人が国内外で実施した人道援助事業に焦点を当て、個人とコミュニティに「自助」を求める福祉思想のトランスナショナルな形成過程を考察した。書籍掲載の論文では、1960年代にフロリダ州マイアミに到来したキューバ難民のうち、特に男性の同伴者がいない女性に対するアメリカ政府の就労強制に焦点を当て、第2次世界大戦以来の難民援助における国際的な実践倫理が、萌芽期のワークフェア政策に影響を与え、折しも高まっていた福祉権/人権の思想との間に緊張を生み出したことを指摘した。他方、紀要掲載論文では、ベトナム戦争中の南ベトナムにおいて、戦火により負傷した子供の救援とリハビリテーション(社会復帰支援)を実施しながら、ベトナムからのアメリカの影響の除去に活動の意義を見出していく民間団体に焦点を当てた。そして、人道(子供の救援)と人権(反戦)という、団体が追及した二つの異なる目標の間に生じた矛盾を析出し、人権の批判的視座が人道援助実践に生じさせた変化を明らかにした。 上記2論文は、いずれもアメリカの福祉思想(ワークフェア、リハビリテーション)に対する国境を越えた思想動向、とりわけ人道と人権の論理の影響を明らかにするものであり、国際的な思想連関の文脈からアメリカ福祉史を再考するという、本研究計画の進捗にとって大きな意味を持つと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は、当初の研究計画で最終年度に予定されていた、1960年代初頭のキューバ難民に対するアメリカ政府の福祉提供と「ワークフェア」の分析を行った。その結果、研究開始時の想定通り、アメリカのワークフェア政策に国際的な人道主義と人権思想がそれぞれ影響を与え、両者の衝突が政策実施のあり方を左右していたことが示された。そのほか、1960年代末の南ベトナムで行われていた子供へのリハビリテーション(社会復帰支援)の提供において、人道主義と人権思想との間に矛盾が生じていたことを明らかにしたが、これは、当初の研究計画が想定していたよりも後の時代におけるアメリカ福祉思想の国際的展開を跡付けるものであり、研究開始当初に予期した以上の成果であったと言える。 上記のように着実な研究の進捗はあったものの、2020年度から引き続くコロナ禍のため、海外での史料調査を実施することができず、結果として、国内での史料・文献調査とオンライン史料の検索に基づく研究が中心となった。そのため、当初、2020年度までに完了する予定であった研究計画の内、1950年代のアジア地域におけるアメリカ福祉専門家の活動と、その国際的な背景に関する分析が未実施となっている。2022年度には、これに関連する史料調査と分析を行うことで、当初の研究計画の完了を目指したい。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の2年目にあたる2020年度以降、新型コロナウィルス感染症の広がりにより海外での史料調査実施が困難な状況が続いてきた。しかし、2022年度4月1日をもって日本政府外務省が発表するアメリカ合衆国の「感染症危険レベル」が2に引き下げとなり、研究代表者の所属機関の内部規定に照らして、同国への渡航と史料調査が可能となる見込みが高まった。そこで2022年度には、当初の研究計画のうち未実施となっている、1950年代のアジアにおけるアメリカ人福祉専門家の動向と、彼らを通して進んだ福祉思想の国際連関の分析を行いたい。 上記の分析が依拠する史料として、アメリカ合衆国フィラデルフィアにあるアメリカ・フレンズ奉仕団(The American Friends Service Committee)の文書館に所蔵された、同団体のアジアにおける活動記録を収集する。これらは、南アジア、韓国、そして日本における人道援助としての福祉提供の実態を示すものである。とりわけ韓国に関する史料は、朝鮮戦争後、難民化した寡婦の自立支援事業に関する記述を多く含んでいる。これらの史料は、アジアにおけるアメリカの国際的な人道援助事業と、そこで醸成された福祉思想の中に、ひとり親女性を対象としたワークフェアの淵源を探す本研究の進捗にとり不可欠である。 なお、上記の史料調査と合わせて、カリフォルニア州スタンフォード大学のフーヴァー研究所が所蔵する国際救援委員会資料(The International Rescue Committee Records)の現地調査も行いたい。その目的は、冷戦期に実施されたキューバ難民女性への福祉提供に関わる個々の事例を通して、アメリカ政府の難民女性支援の実態を難民側の視点で再検討することである。
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Causes of Carryover |
2020年に発生した新型コロナウィルス感染症の流行が継続し、海外での史料調査が実施できず、その分の渡航費が未使用となったために次年度使用額が生じた。2022年度にアメリカ合衆国での史料調査を実施し、これを使用する予定である。
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