2018 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ合衆国における公民権運動と連邦住宅法の歴史学的研究
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18K12544
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Research Institution | Gifu Shotoku Gakuen University |
Principal Investigator |
武井 寛 岐阜聖徳学園大学, 外国語学部, 准教授 (10707368)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 人種 / 公営住宅 / 都市史 / 住宅政策 / ジェンダー / 都市計画 / 公民権運動 / 階級 |
Outline of Annual Research Achievements |
4年間の研究プロジェクト初年目にあたる平成30年度は、公営住宅に対する連邦政府の支援の必要性を提唱し、公営住宅建設の条項を法案に盛り込むことに尽力した住宅改革家のキャサリン・バウアー・ウースター(Catherine Bauer Wurster)を中心に検討した。前半の4月から7月は当初の計画通り、ワシントンDCにある議会図書館で平成29年度に収集した全国黒人向上協会(the National Association for the Advancement of Colored People, NAACP)の史料分析を行った。また、4月には日本アメリカ史学会第41回例会で、杉渕忠基氏の修士論文「『KKK Report(1872)における証言の現場―テネシー州とサウスカロライナ州を中心に―』」に対して、公民権運動研究の立場からコメンテーターを務めた。8月にはカリフォルニア州サンフランシスコにあるカリフォルニア大学バークレー校のバンクロフト図書館で、キャサリン・バウアー・ウースターの個人ペーパー(Catherine Bauer Wurster Papers)の史料収集を行った。平成30年度後半には夏に調査したバウアーの個人ベーパーの分析を行うと共に、その史料を用いて研究発表及び同テーマの論文を執筆した。9月には日本アメリカ史学会第15回年次大会自由論題で「キャサリン・バウワー・ウースターの人種観と住宅政策 -『ハウサー』と公正な住宅を求める黒人の活動との接点-」と題する研究報告を行った。本報告では、20世紀前半に公営住宅の必要性を主張したキャサリン・バウアー・ウースターの人種観に注目し、彼女の唱える低所得者に公営住宅を提供するという理念が、彼女の活動を通してどのように変化していったのかについて分析を行った。9月以降は本報告をもとに論文を執筆し、『立命館言語文化研究』に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究プロジェクトにおいて最も重要なアメリカでの現地調査を予定通りに行えた。平成30年度は、カリフォルニア大学バークレー校のバンクロフト図書館で史料収集を行った。同図書館にあるキャサリン・バウアー・ウースター・ペーパーズは、本研究で注目する公民権運動と連邦住宅法を検討する上では欠かせない史料である。今回の史料調査では、平成26年度の調査(平成25~26年度科学研究費「研究活動スタート支援」)で同史料を調べた際に取りこぼしていたものも収集することができたので、本史料の分析を通して研究を推進していきたい。研究成果の発表という面では、研究テーマに関する学会報告を1回と学会報告コメンテーターを1回行った。投稿論文に関しては依頼論文を執筆して掲載が決定し、令和元年度には刊行される予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度は、本研究プロジェクトに関連する二つのテーマの論文執筆に力を入れたい。一つ目のテーマは、1948年に制限的不動産約款を用いた住宅に関する人種排除の禁止を命じた連邦最高裁判所のシェリー対クレーマー判決(Shelley v. Kraemer)の歴史的意義を考察する。本テーマは数年前より検討してきたが、判例や史料の分析に少々時間がかかり、これまで論文化できていなかった。今年度は本論文を完成させ、学術ジャーナルに投稿したい。二つ目のテーマは、NAACPに代表される公民権団体が住宅改革家との協力関係のなかで、公正な住宅を求めた活動をいつ頃から公民権と捉え始めたのか明らかにしたい。NAACPは長年人種に関わる様々なテーマについて裁判闘争を通して争ってきた。その中で住宅問題がいつ頃重要になってきたのか検討していきたい。また、第二次世界大戦後に生活環境の向上を目指して行動を起こした黒人の中には、軍隊での経験を有した人が多かった。公正な住宅を求める活動を検討する上で、黒人退役軍人にとって住宅はどれほど重要であったかという点も考察していきたい。この二つのテーマを検討することで、本研究では公正な住宅を求める権利を公民権(civil rights)として捉えて公民権運動研究の新たな視座を提供したい。
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Research Products
(2 results)