2018 Fiscal Year Research-status Report
中国遼寧地域の漢代墳墓研究―新出土資料と20世紀前半期発掘資料をもとに―
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18K12549
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石川 岳彦 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (70419844)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 考古学 / 漢代 / 中国 / 遼寧地域 / 墳墓 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中国遼寧地域の漢代墳墓の内部構造と陶製明器(副葬用土器)を中心とする副葬品について、それらの変遷過程と特質を解明することを目的として、当初計画書のように以下の①から③の調査を実施している。2018年度における成果を調査ごとに記す。 調査①:既報告の墳墓に関するデータの集成と考察については、遼寧地域における漢代墳墓調査の現状を把握するべく、国家文物局主編『中国文物文物地図集 遼寧分冊』(西安地図出版社、2009)に収録されている漢代~三国期の墳墓をすべてピックアップし、データ化した。そしてそれをもとに、まず遼東内陸部の漢代墳墓データの集成を原報告にあたりながら進め、遼東内陸部の漢代墳墓の分布と墳墓の構造、出土遺物に関する情報を把握できた。 調査②:20世紀前半期に発掘された東京大学文学部考古学研究室所蔵の中国遼寧省遼陽周辺漢代墳墓出土資料の調査については、出土資料を器種ごとに分け、整理作業を実施している。2018年度は、陶製明器のなかでも、壺をはじめとする容器形の明器に比べて構造や製作技法が複雑な、建物形明器と竈形明器の整理をとくに進めた。そして資料全体におけるこれらの器種の位置づけが明らかになった。 調査③:上記の東京大学考古学研究室所蔵資料との比較検討のための国内外機関にある関連資料の実見調査に関しては、2018年8月に遼寧省遼陽周辺の出土資料に関して、遼寧省博物館を訪問して実物資料を調査した。その結果、20世紀後半に中国側が発掘した資料と東京大学所蔵資料については陶製明器の器種や形態のみならず、製作技法の点でも類似点がきわめて多く、年代的にも近い位置にあることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に記した調査ごとに進捗状況を記載する。 調査①については、遼東内陸部の漢代墳墓に関する調査報告のデータ集成がほぼ完了した。また、『中国文物地図集 遼寧分冊』に収録されている遼寧省内の漢代墳墓リストを完成させ、遼寧地域における漢代墳墓の分布や各墳墓の名称、所在地、出土遺物の概要、報告の有無、報告が出ている場合にはその文献の名称等を参照できる状況になっている。 調査②に関しては、東京大学考古学研究室所蔵の遼陽周辺漢代墳墓出土陶製明器のなかでほぼ半数を占める建物形明器と竈形明器の整理を実施した。これらの明器の整理作業はほぼ終了し、実測や写真撮影などの図化作業を残すのみの状況である。また、東京大学考古学研究室所蔵資料に関しては、研究計画段階には存在が明らかではなかった発掘調査の際に作図された墳墓内部の平面図や断面図など、未報告の詳細な図面が東京大学考古学研究室に所蔵されていることがわかり、それらの図面の整理も始めている。 調査③については当初の計画通り、遼寧省瀋陽市にある遼寧省博物館にて、20世紀後半に発掘された漢代墳墓出土資料と東京大学考古学研究室所蔵資料との比較調査を実施した。遼寧省博物館は2015年に新館が開館して展示資料も大幅に増加し、近年の発掘資料も含めた多くの実物資料を実見することができた。とくに中国側が発掘した遼陽周辺の漢代墳墓出土陶製明器は、東京大学考古学研究室所蔵資料と酷似する資料が多く、年代的にもかなり近いものであることが確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」に記した調査ごとに今後の推進方策を記載する。 調査①については、遼東内陸部に続き、遼東半島の漢代墳墓データの集成を行う。遼東半島については、漢代の墳墓の構築に石、「セン」(「土」偏に「専」)、貝とバリエーションに富む素材が使われている。これまで、これらの各構築材によって造営された墓を横断的、総合的に考察した研究はなされていないため、今回の集成によって大きな成果があげられることが期待される。 調査②に関しては、東京大学文学部考古学研究室所蔵の遼陽周辺漢代墳墓出土陶製明器の調査を進める。2018年度に引き続き建物形明器と竈形明器の整理、図化作業を行うほか、壺をはじめとする容器形の明器の整理作業を実施する。また、調査当時に作成されたまま未報告の各種図面をトレースするなどして、整理する予定であり、この作業に関しては業務補助の人員を補充する方向で考えている。 調査③については、遼東半島の漢代墳墓出土資料の実見を現地で行うほか、2018年度に実施することができなかった遼寧省鞍山市羊草庄遺跡、普蘭店市姜屯遺跡といった大規模な漢代墳墓群の踏査を行いたいと考えている。また、国内の関連資料調査については、東京国立博物館に所蔵されている遼寧地域の漢代墳墓出土資料(陶製明器)の実見を行うべく準備を進めている。 以上の調査のほか、2019年度中に本研究のこれまでの成果に関する発表を関連学会にて行う予定である。
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Causes of Carryover |
物品費について、東京大学文学部考古学研究室所蔵資料の整理作業を始めるにあたって新たに購入する予定であった実測用具や資料収納のためのテンバコ等の使用器具について、既使用品を譲り受けたり、定価以下の価格で購入できたために余剰が生じた。人件費・謝金について、2018年度は前半、研究代表者のみが作業を行うことが多く、年度後半に謝金を支出しての作業補助を依頼したために余剰が生じた。 2019年度は、東京大学考古学研究室所蔵の遼陽周辺漢代墳墓出土資料調査に関連して、当初の計画にはなかった発掘調査時に作成された図面の整理作業も本格的に進める予定であり、作業補助の人員を増やしたいと考えており、余剰分はその謝金に充てる。また、中国での遺跡踏査など、博物館や研究機関以外での調査をより充実させる必要があり、当初計画の旅費が不足すると考えられるため、それにも充てる。
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