2019 Fiscal Year Research-status Report
考古学的分析手法を導入した博物館収蔵アイヌ民具資料の基礎的研究
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18K12558
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Research Institution | Hokkaido Museum |
Principal Investigator |
大坂 拓 北海道博物館, アイヌ民族文化研究センター, 研究員 (60761658)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アイヌ / 物質文化 / 民具 / 製作技術 / 出自集団 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度は、第一に地域を単位とする分析事例として北海道南部の渡島半島を取り上げ、アイヌ民族の人口分布と民具資料収集地の分布を比較し、資料収集に作用した各種のバイアスを検討し、成果を研究論文「渡島半島のアイヌ社会と民具資料収集者の視野―旧開拓使函館支庁管轄地域を中心として―」としてまとめた。分析の結果、文献から明らかになる渡島半島のアイヌ民族居住地15地点のうち、民具資料収集の対象となったのはほぼ3地点に限られることが明らかになった。その背景には、近世期以来、和人の移住が多かった西蝦夷地で人口の減少が急速に進行したことと、人口規模が大きな変動を経なかった地域でも和人移住者の増加によって習俗の和風化が急速に進行したことがあり、近代以降、資料収集者に見落とされる要因となったことを示した。こうした地域差の存在は、従来の民族誌記述で見落とされてきたものであり、その批判的な検討は本質主義的伝統文化像に縛られない歴史的変容過程を把握することに繋がる。
第二に、葬送儀礼具のうち、遺体包装等に使用する葬送用広紐を対象としてその地域差を分析し、成果を研究論文「北海道アイヌの葬送用広紐に関する基礎的検討―製作技術の地域差と日高東部地域における東方系・西方系出自集団との関係― 」としてまとめた。先行研究の中には、日高地方東部で観察された出自集団への帰属意識が北海道全域を二分するほどの規模をもつものと推定する意見もあったが、葬送用広紐に関する限り、各出自集団に特徴的とされる型式の分布は新冠から浦河の範囲にとどまり、沙流川流域以西にも共有されていないことが明らかになった。これは、アイヌ民族の地域集団の把握に関する基礎的データとして有効である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の各項目ともに、ほぼ遅滞なく実施できている。 研究に必要な調査は、各収蔵機関との良好な関係のもとでおおむね予定通りのペースで進めることが出来ている。また、各年度に成果を発表してきたことに対する反応として、様々な関連情報が寄せられるようになっており、研究の質の向上に結び付いている。以上の点より、本研究課題は「おおむね順調に進展している」ものと評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
1.葬送儀礼具についての調査を継続的に実施する。ただし、令和2年3月以降、新型コロナウイルスの感染拡大が続いているため、北海道内での移動、他府県との往来に支障が生じているため、主として所属機関の所蔵資料を対象として分析に着手し、状況が改善した場合には順次対象を広げる方向で柔軟な計画を立案する。
2.狩猟具・漁労具を含む各種民具の組成に関する分析を継続的に実施する。令和2年度は既に基礎的な情報収集が終了している胆振・日高地方を対象に分析を行うとともに、宗谷、北見、根室地域の基礎的情報の蓄積に勤める。
3.成果の公表は、所属機関の紀要及び外部刊行物への投稿を予定している。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染の広がりによって、令和2年3月に予定していた調査を延期したため、旅費として使用を予定していた部分が次年度使用額となった。状況の改善後に速やかに調査予定を遂行する予定である。
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