2020 Fiscal Year Research-status Report
考古学的分析手法を導入した博物館収蔵アイヌ民具資料の基礎的研究
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18K12558
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Research Institution | Hokkaido Museum |
Principal Investigator |
大坂 拓 北海道博物館, アイヌ民族文化研究センター, 研究職員 (60761658)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アイヌ / 物質文化 / 民具 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は、地域を単位とする分析事例として、北海道南部の後志地方を取り上げ、アイヌ民族の人口の推移と、各時期における民具資料収集の分布を比較した上で、資料収集に作用した各種のバイアスを検討した。その成果は研究論文「後志地方の近代アイヌ社会と民具資料収集の射程―旧開拓使札幌本庁管下後志国9郡を対象として―」として発表した。
分析の結果、後志地方の9郡のうち民具資料収集の対象は、明治期には複数の郡に及んでいるのに対して、大正~昭和期にほぼ余市郡に限られるようになったことが確認された。その要因として、小樽郡の場合には、従来から指摘されてきた行政による市街地からの排除が介在している可能性が考えられたため、関連文書資料の精査を実施した。結果、小樽郡のアイヌ民族は開拓使が進めた地租創定事業の中で明治11年に宅地の私有権を認められたものの、明治13年前後から、市街地の整備を進める郡役所により遠隔地への移転を勧奨されるようになり、明治14年中に全戸が移転を完了していたことが確認された。小樽郡住民の移転先となった高島郡及び隣接する忍路郡では、明治後期以降、他地域への人口流出が急速に進み、明治末には人口がほぼ消滅していた。一方、岩内郡・古宇郡・積丹郡の場合には、他地域に見られたような人口流出を裏付ける明確な証拠は得られなかったものの、昭和初期には統計上の人口がほぼ消滅していた。これは、行政による異民族統治策が明確な形で実施されなくなったことにより、統計的な把握が取りやめられたものと推測された。こうした複数の要因によって、収集・記述の対象となる地域が限定されていく過程が捉えられたことは、従来の民族誌記述をその限界に留意しつつ解釈する上で重要な成果と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究に必要な調査は、新型コロナウイルスの感染拡大によって延期を余儀なくされる場合があったが、各収蔵機関との良好な関係のもとで検討に必要な情報を得ることができた。また、各年度に成果を発表してきたことに対する反応として、様々な関連情報が寄せられるようになっており、研究の質の向上に結び付いている。以上の点より、本研究課題は「おおむね順調に進展している」ものと評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
1.旧天塩国・北見国・根室国を対象として、文献資料との対比から収集された民具資料の性格について考察する。ただし、新型コロナウイルスの感染拡大が繰り返され、北海道内での移動、及び他都府県との往来に支障が生じているため、主として所属機関の所蔵資料を対象として分析に着手し、状況が改善した場合には順次対象を広げる柔軟な計画を立案する。
2.葬送儀礼用具に着目した検討を継続し、背景情報を伴う資料群の集成と分類を通じて、各地域の資料群の形成過程を明らかにする。
3.成果の公表は、所属機関の紀要及び外部刊行物への投稿を予定している。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の拡大により、北海道北部で実施を予定していた現地調査が延期を余儀なくされたため、旅費の支出が当初の計画を下回った。翌年度は感染症の抑制を期して日程を再調整し、確実に調査を実施することとする。
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