2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K12567
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
澤浦 亮平 独立行政法人国立科学博物館, 人類研究部, 協力研究員 (20816201)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 後期更新世 / 旧石器時代 / 動物考古学 / 大型シカ類 / ヘラジカ / ミヤコノロジカ / ヤベオオツノジカ |
Outline of Annual Research Achievements |
宮古島ピンザアブ洞穴から出土したミヤコノロジカの腰椎の表面に残された線条痕について、ヒトの利用に関わるものであった場合どのような成因を想定できるのか、現生標本(ブタ)と更新世のヒトが利用した可能性のある利器の模造復元品を用いて実験的な検討を進めた。現生標本として軟組織が5-10mmほど残るブタの腰椎を用いた。模造復元品は沖縄本島のサキタリ洞遺跡から出土した二枚貝(マルスダレガイ科)製利器と石英製石器をモデルとし、ミヤコノロジカに観察された傷の再現をブタの腰椎に試みた。傷の再現は、現生標本が生の軟組織が残っている状態と1時間煮沸してからの状態の2つの場面を設定した。化石の表面の傷の断面形状と実験に用いた模造製作の貝器、石器の刃部の断面形状の把握のため、各資料を歯科用シリコーンで形状をかたどり、シリコーンを切断し、その断面を直接スキャナーでスキャンした。利器による傷と化石の傷の断面形状を比較した結果、生の軟組織が残存している場合は、貝器、石器ともに傷が生じることはなかった。唯一、化石の傷に似た傷が生じたのは、現生標本を煮沸した後の石器による切削の場合であった。これらのことから、化石に残された傷は、生の軟組織が残存した状態では生じえなかった可能性が示唆された。 さらに、化石に残された病変についての検討を深めるためにミヤコノロジカの大腿骨の骨折痕について沖縄県立工業技術センターにおいて試験的にX線CT撮影を行った。ミヤコノロジカ標本には、高頻度で骨折痕が認められるが、いずれも治癒した痕跡があり、致命傷には至らなかったことが分かるが、これがヒトをも含む捕食者からの狩猟圧が小さかったからなのか否かは注意を要する。これを検討するためには、骨折を含む化石に残る病変への理解を今後深めることが重要となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度より研究代表者が沖縄県立博物館・美術館に常勤の職を得たことで、研究にあてられる時間も労力も当初予定したよりも減縮したことが研究の進捗が遅れている主要な理由である。また、離島勤務であるため研究の主要対象である国内のヤベオオツノジカとヘラジカ化石へのアクセスが困難となり、主要な研究対象のひとつに琉球列島のミヤコノロジカを加えヤベオオツノジカとヘラジカの研究に遅れが生じていることも、研究全体の進捗遅延の主要な理由のひとつである。さらに、年代測定や同位体比測定といった内地にある大型の研究設備と研究協力者の支援を必要とする研究内容も困難となった。
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Strategy for Future Research Activity |
琉球列島に生息した更新世のシカ類はヒトや肉食獣などの天敵が少なく捕食圧が低かったためか、骨折などで歩行が困難となった後でも生存し続けられたことが化石記録から知られている。だが、これらのシカ類の負傷について詳細な検討はいまだ実施されておらず、どのような部位に骨折が頻発していたのかさえ、いまだ不明である。そこで、宮古島ピンザアブ洞穴から出土したミヤコノロジカの化石を対象に、X線CT撮影による画像解析等を実施することで古病理学的な観点からミヤコノロジカの生態について検討を加え、人類の捕食圧の有無とその大きさについて他のシカ類集団(現生・化石)と比較し、集団の年齢構成等も踏まえながら考察する。 また、当初の主要研究対象であるヤベオオツノジカとヘラジカについては、県外の機関が所蔵する標本へのアクセスが新型コロナウイルスの影響でこれまで以上に困難となることが予想されるため、研究代表者が発掘調査に関わっている遺跡から出土した資料の分析に集中することとする。
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Causes of Carryover |
2019年10月に日本人類学会大会への参加を予定していたが、台風の影響により沖縄から九州への渡航が困難となったことから、当初予定していた旅費を次年度へ持ち越さざるを得ないと判断した。生じた次年度使用額は、次年度に開催される学会への参加のための旅費や物品購入費等へ使用計画を変更する予定である。
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