2020 Fiscal Year Research-status Report
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18K12567
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
澤浦 亮平 独立行政法人国立科学博物館, 人類研究部, 協力研究員 (20816201)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 後期更新世 / 旧石器時代 / 動物考古学 / 大型シカ類 / ヘラジカ / ミヤコノロジカ / ヤベオオツノジカ |
Outline of Annual Research Achievements |
新型コロナウイルスの感染拡大によって県外への移動が制限され、当初予定していた資料調査には大きな影響を受けた。この状況でも着実に推進し得る県内資料に重点を置く研究の設計に切り替え、昨年度から開始した化石に残された病変についての検討を深めるために、ミヤコノロジカ化石の骨折痕等について沖縄県工業技術センターにおいてX線CT撮影を集中して行った。昨年度予備的に検討した大腿骨のほかに、中手骨、中足骨が病変の高頻出部位であることを確認し、その具体的な内容の検討についての基礎データを収集した。
また、更新世人類化石とシカ類を中心とする動物化石が産出したことで著名な久米島町下地原洞穴遺跡において化石の産出状況の再検討、現地踏査、試験的な発掘を行うことで、更新世シカ類と人類との関係についての新知見の収集を目的としたフィールドワークも行った。シカ類と人類との関係については今後採取した資料の年代測定や同位体比測定等の理化学的な分析を含む詳細な検討を予定している。本研究課題の主旨とは外れてしまうが、このフィールドワークによって更新世人類による海産資源利用を解明するための重要なヒントを得ることもできた。特に海産貝類利用については注目すべき成果を得た。
更新世シカ類化石と人類活動を結びつけて考察するためには、化石記録の帰属時期を厳密に整理する必要がある。この要請に応えることのできる資料は未だ少数であるが、本研究課題で実施可能な範囲で精査を行い、更新世人類とシカ類との関係についての新知見を少しでも多く得るべく調査研究を継続したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度より研究代表者が沖縄県立博物館・美術館に常勤の職を得たことで、研究にあてられる時間も労力も当初予定したより減縮したことが研究の進捗が遅れている主要な理由である。また、離島勤務であるため研究の主要対象として計画していた国内のヤベオオツノジカとヘラジカ化石へのアクセスが当初の想定よりも困難となった。これを受け、新たに主要な研究対象のひとつに琉球列島のミヤコノロジカを加えたが、ヤベオオツノジカとヘラジカの研究に遅れが生じざるを得ない状況が続いており、これが研究全体の進捗遅延の主要な理由のひとつである。さらに、年代測定や同位体比測定といった内地にある大型の研究設備と研究協力者の支援を必要とする研究内容も困難となった。当該年度は、新型コロナウイルスによるパンデミックの影響も重なり、資料調査や成果発表は思うように進まなかったが、沖縄県工業技術センターの協力を得て、勤務先に所蔵されているミヤコノロジカ化石標本のX線CTスキャンを進め古病理学的な検討を行うための準備を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
宮古島ピンザアブ洞穴から出土した病変の認められたミヤコノロジカ化石のX線CT撮影による古病理学的な検討をさらに推進することで、ミヤコノロジカの生態について新しい視点からの検討を加える。この検討により、ミヤコノロジカへの人類の狩猟圧の有無について、化石に残された直接的な人為的な痕跡の有無と合わせて考察する。
また、当初の主要研究対象であるヤベオオツノジカとヘラジカについては、県外の機関が所蔵する標本へのアクセスが新型コロナウイルスの影響でこれまで以上に困難となることが予想されるため、研究代表者が発掘調査に関わっている遺跡から出土した資料の分析に集中することとする。これらの分析からは古生物の分布や生態、さらには更新世人類の大型獣利用に関する重要な知見が得られる可能性が高い。
本年度が本研究課題の最終年度となるため、分析と資料調査はこれまで行ってきたものの補足的な内容にとどめ、これまでの研究成果をまとめる作業に重心を置き、学会発表や論文投稿等の成果発表を集中して行うように努める。
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Causes of Carryover |
県外への複数の資料調査を予定していたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により沖縄から県外への渡航が困難となったことから、当初予定していた旅費を次年度へ持ち越さざるを得ないと判断した。生じた次年度使用額は、次年度に開催される学会への参加のための旅費や物品購入費等へ使用計画を変更する予定である。
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