2018 Fiscal Year Research-status Report
黒染め染織文化財に対する脱酸化・抗酸化・強化処置法の開発
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18K12569
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Research Institution | The Kyoto Costume Institute |
Principal Investigator |
佐藤 萌 公益財団法人京都服飾文化研究財団, KCI学芸課, 研究員 (20801632)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 染織文化財 / 保存修復 / タンニン酸 / 鉄媒染 / 劣化 |
Outline of Annual Research Achievements |
タンニン酸と鉄媒染で染色された黒染め染織文化財の劣化が、作品を収蔵する世界中の美術館や博物館で深刻な問題となっている。その原因は染色後に織物内部に残存する酸や鉄による触媒作用の影響であり、繊維が経年とともに劣化し粉状化するためである。しかし未だ有効な実践的処置法の開発にまでに至らないのが現状である。本研究では、脱酸性化・抗酸化・強化処置の役割を持つ単体の処置剤または最適な組み合わせの処置剤を用いて、黒染め染織文化財保存修復のための実践的研究を行うことを目的とする。 モデル布帛には絹と綿を使用し、タンニン酸による染色と硫酸第一鉄による媒染処理後に加速劣化させ、処置の検討に供した。評価方法については、分光測色計で色の変化を調べ、pH測定により酸性度を調べ、バソフェナントロリン試験(二価鉄指示薬紙)により処置後の二価鉄イオンを定性し、引張試験機により物性試験を行った。一度の処置で脱酸性化・抗酸化・強化3種類の効果が期待されるアニオン性高分子のアルギン酸ナトリウム、レシチン、カゼイン、γ-ポリグルタミン酸、ポリエチレンイミンを処置に用いた。引張試験及びバソフェナントロリン試験いずれの結果にも効果が見られたのはアルギン酸ナトリウムとガンマポリグルタミン酸の処置であったが、脱酸の効果は得られなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
引き続き脱酸化・抗酸化・強化効果のある処置剤の選定・実験・評価を行う必要があるが、黒染め染織文化財のモデル布帛を作成し、各種処置剤を用いてその有効性を評価することが出来たため、おおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
処置剤の検討を続けると同時に、保存修復の現場に還元するための最適な処置濃度と塗布方法について検討する。多くの黒染め染織文化財は立体構造・複合素材で構成されているため、それらを再現したモデル文化財試料に対し、スプレー・刷毛・ローラー・ネブライザーなど実際に染織品保存修復の現場で行われている塗布方法を用いて、処置の効果を検証する。
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Causes of Carryover |
処置数が予定よりも少なくなり、処置に使用する物品を購入しなかった。該当助成金は、次年度実施する処置に使用する物品を購入することにより使用する。
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