2019 Fiscal Year Research-status Report
Anthropological Study of Archive and Community: A Case of Holocaust Museum in Israel
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18K12596
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
宇田川 彩 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(PD) (20814031)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 記憶 / アーカイブ / イスラエル |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年4月より2020年2月まで、イスラエルにおける現地調査を行った。 ・調査「イスラエル国立アーカイブとデジタル化の思惑」 本調査は、アーカイブに蠢く様々な政治的な思惑や、人とモノのダイナミズムに焦点を当て、「イスラエル国立アーカイブ」での資料のデジタル化について、アーキビストと関連するNGOのディレクターへのインタビューを通じて考察した。イスラエル管轄下にあるアーカイブにおいて、国家安全(軍事)保障を理由に開示拒否される資料には、読まれたくない不都合なナラティブが含まれている。他方で、パレスチナには組織化されたアーカイブが存在しないため、圧倒的な情報量の不均衡が存在する。イスラエル国内には、レベル・規模・テーマの異なるアーカイブが数多く存在する。その一つ一つに、異なる歴史観と人びとの思惑が詰まっている。デジタル化されたアーカイブは資料の在り処と出どころを想像させない独特の空間を作り上げているが、その水面下には複雑なダイナミズムが潜んでいることが確認された。 ・調査「アーカイブと現代アート活動」 今年度の研究発展として、アーカイブ資料を用い、歴史や記憶をテーマとして制作された同時代のアート作品へ注目したことが挙げられる。イスラエルにおける博物館展示や歴史叙述は、しばしばイスラエル国家のアイデンティティ構築や教育的な意味合いから、オフィシャルな歴史叙述が行われる。他方で、モニュメントや博物館に呈示される歴史/記憶ではなく、その不在自体をテーマにした作品を制作するアーティストや、ホロコーストや1948年の独立戦争といったテーマを取り扱いながら独自の解釈を織り込んだアーティストの事例が見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の研究については、「ナショナルな記憶を解きほぐす――『ホロコーストと再生』のモニュメントを中心に」2019年7月ディアスポラの記憶と想起の媒体」(科研費基盤研究B)研究会、東洋大学 (口頭発表) および、調査報告 「イスラエル国立アーカイブとデジタル化の思惑」2020年3月、『東京大学中東地域研究センターニューズレター』第16号 にて公表している。 フィールドワーク内容としては、イスラエル国立アーカイブでの調査、個々のアーティスト、キブツ・ヤドモルデハイ、ヤドヴァシェム(ホロコースト博物館)でのインタビューおよび調査が行われ、アーカイブと文化人類学に関する文献調査もある程度進めることができた。論文や著作を通しての公表は今後とも継続する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度もイスラエルでの調査継続を予定していたが、4月末現在で新型コロナウイルスの影響により海外渡航の目途が立っていないため、オンラインでの調査および文献調査を中心として研究活動を開始する。 デジタルアーカイブにも着目し、アーカイブ資料のデジタル化が変える国家と記憶・歴史叙述のあり方についても考察したい。たとえばイスラエル国立図書館(National Library)では、世界のユダヤ系図書館とイスラエル国内のアーカイブから資料をデジタル化し、一元化するデジタルデータベースを構築している。ホロコーストについて資料を一元化する国立図書館と、地方やイスラエル国外のアーカイブとの間には共通の目的も、また競合関係もあるはずである。理論的な調査とフィールドワークに基づき、一元化と拡散の動態を明らかにする。
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