2019 Fiscal Year Research-status Report
ケアの論理を通した〈自然=社会〉性と主体性の再検討
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18K12598
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
松嶋 健 広島大学, 社会科学研究科, 准教授 (40580882)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ケア / 環世界 / 生態学 / 微生物 / 発酵 / 人間ー生物関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、調査地に赴いてのフィールドワークおよびマルチスピーシーズ人類学に関する文献のサーベイを中心に研究をすすめた。微生物を含む複数種の生物と人間との関係は、それぞれの環世界が相互に入れ子状になっているためにきわめて複雑であり、容易に理論化やモデル化を許さないところがある。ただそのなかで明らかになってきたのは、同種の生物だけでなく、コミュニケーションや理解の可能性がゼロに近いような「他者」とのあいだでも、共生(symbiosis)はある条件においては可能だということである。そうした共生を可能にするような条件として特に重要だと考えられるのは、ともすればと友-敵関係に陥りやすい二者のあいだの相克や敵対を無効化しうる複数性と多様性の場や環境である。 医療や福祉に関わる先行研究では、ケアというとどうしても二者間の関係性のなかで捉えられがちであったが、ケアの論理が働きやすいのは複数性と多様性の場であり、そこではケアをすべきなのは、対象となる相手そのものというよりも自己と相手の双方を含んだ環境ということになる。発酵の過程は、こうした環境への働きかけとしてのケアという側面がよく見える現場であり、害をなしうる微生物を排除するのではなく、いかに害をなさない状態にとどめておくような環境をつくるかが鍵となる。こうした具体の科学としての実践知に基づく社会性が、どのようにして人間を含んだ関係性にまで拡張されうるかを考察する上でとりわけ重要な発見は、まさに上述した論理と同じ論理から導き出されるものであり、それは人間だけを成員とする社会を前提とした思考からは決して出てこないという点に存する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初計画では本年度に複数回の現地調査を実施する予定だったが、新型コロナウイルスの影響などにより一度だけしか行なうことができなかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルスの影響がどれほど長引くか不明であるため、今年度の前半は引き続き微生物やウイルスを含む複数種の生物や非生物と人間との関係性に関わる文献のサーベイを中心にすすめることとする。現地調査を少なくとも二度実施したいと考えているが、Covid-19にまつわる状況を見ながら、年度後半に可能な範囲で行なう予定である。
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Causes of Carryover |
当初の予定では複数回実施することにしていたフィールドでの現地調査だが、新型コロナウイルスなどの影響のため一度しか行なうことができなかったため、それに充当する予定だった分を残した。当該助成金については、次年度後半に実施する現地調査の費用として使用する予定である。
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