2022 Fiscal Year Annual Research Report
Rethinking nature-sociality and subjectivity through the logic of care
Project/Area Number |
18K12598
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
松嶋 健 広島大学, 人間社会科学研究科(社), 准教授 (40580882)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | ケア / 発酵 / 微生物 / チーズ生産 / 〈自然=社会〉性 / 自律性 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって数年にわたって延期を余儀なくされていた現地調査を行なうことができた。北海道の生産共同体に住み込んで日常の活動に参加するとともに、チーズ生産を手伝いながら調査を実施した。品質の高いチーズを生み出すために土壌、牧草、牛、乳、微生物に対してなされるケアと、共同体での人と組織に対するケアが並行しつつもズレをもちながら絡まり合っている状況から、人間と人間以外の動植物や微生物も含むつながりにおけるケアの論理およびそれに基づく共同性について考察をすすめた。 医療や福祉に関わる先行研究では、ケアは二者間の関係性のなかで捉えられることが多いが、ケアの論理が働きやすいのは複数性と多様性の場であり、そこでケアをすべきなのは、対象となる相手そのものというよりも自己と相手の双方を含んだ環境ということになる。発酵の過程は、こうした環境への働きかけとしてのケアという側面がよく見える現場であった。 このような調査をもとに、本研究のテーマである近代における人間中心主義的な発想に基づく「主体性」に代わる、〈自然=社会〉のなかでの「主体性」について、人間以上の世界における「ケアを通した自律性」という観点から分析し、その成果を2023年3月に開催された国際シンポジウムにおいて口頭発表した。 一連の研究の成果は、2019年の論考「ケアと共同性―個人主義を超えて」(『文化人類学の思考法』世界思想社 所収)、2021年の論考「ユクスキュルの「問い」と「方法」―円環と螺旋の自然学」(『環世界の人文学―生と創造の探究』人文書院 所収)、2023年の論考「〈流体のロジック〉と〈系譜のロジック〉―「サブスタンス」の系譜学が解き放つもの」(『サブスタンスの人類学―身体・自然・つながりのリアリティ』ナカニシヤ出版 所収)などにおいて発表することができた。
|