2018 Fiscal Year Research-status Report
プロテスタント・キリスト教の受容を通じたカレンの人間観の変容:魂から精神へ
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18K12605
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Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
田崎 郁子 大東文化大学, 国際関係学部, 講師 (00760711)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | プロテスタント・キリスト教 / 人間観の変容 / 宣教活動 / 開発プロジェクト / タイ / カレン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、プロテスタント・キリスト教との接触を通じたローカルな人間観の変容について東南アジア大陸部山地に居住するカレン民族を事例に明らかにすることである。本年度は、夏季にタイへ渡航し現在のキリスト教徒の魂/精神概念について調査、冬季にミャンマーで文献収集する予定であったが、妊娠出産のため海外での調査はできなかった。論文執筆もあまり進んでいないが、タイで博士課程から調査を続けているチェンマイ県ボケオ行政区のカレン村落において、第二次世界大戦後に行われた北部山地への宣教活動の変遷を特に開発プロジェクトに着目してまとめた。その概要は以下の通り。 ボケオにおける宣教は1930年代に始まり、教会と集落が設立されると、第2次世界大戦後には宣教ステーションとして、北タイのカレンにおけるバプテスト宣教の中で重要な役割を果たし、様々な開発プロジェクトの対象地域となってきた。1960年代には米人宣教師夫婦による活動を中心として、婦人労働を中心とした生活改善指導や労働生産性の向上、キリスト教徒としての概観を整えるための経済力向上が目指された。70年代に入るとタイーノルウェー教会支援プロジェクトや国連主導の開発プロジェクトなどの国際NGO、また王室プロジェクトをはじめとするタイの行政、鉱山やイチゴ栽培などの民間が何重にも組み合わさり積み重なりながら、教会と相互に開発を促進してきた。ボケオは山が開けた盆地に急に町が現れたかのような景観を持つが、北タイ山地の中でもかなり開発の進んだこのような景観は、まさに教会を中心に、開発プロジェクトが次々に乗り入れてきたことで形成されてきたのである。またこれらのプロジェクトの影響として、教育機会拡大、外部社会との連結・協同の可能性の開拓、婦人労働への着目、現金収入源を換金作物栽培や織物へ求めるスタイルの形成、貯蓄グループの結成に伴う貯蓄の概念の誕生が指摘できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2018年6月に出産した。加えて、2018年4月から大学の常勤教員として着任し、研究を取り巻く環境が一変した。教育、学務と育児が一気に増えたため、研究に費やす時間の確保がポスドク研究員のころと比べて格段に難しくなり、また、0歳児を抱えての海外渡航による調査は難しいため、調査も十分に行えなくなってしまったことによる。
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Strategy for Future Research Activity |
長い研究人生において、子育てに時間がとられるのはごく短期間だと割り切り、子育てをしながらできる研究スタイルに変えていく。子育ての経験が、今後の研究課題の設定やフィールドワーク、論文執筆に新たな視点を加えたり、プラスの効果を生み出せるようにしていきたい。 本研究課題に関しては、残念ながら長期での海外渡航による調査は今後数年は難しいと思われる。そのため、主には文献資料を用いた研究へと比重を移していきたい。まずは、申請書で挙げていた「聖書の現地語翻訳と魂/精神概念に関する語彙の選択過程についての文献調査」に関する資料収集を、フィールドワークより優先させて行う。具体的には、アメリカン・バプテストからビルマへ派遣された最初期の宣教師メイソンやウェイドによって行われたカレン語聖書の翻訳と辞書の編纂に関して、英語とカレン語の資料を収集し(また手持ちの資料などを生かして)、カレンの魂/精神概念を形成する語彙に着目し、カレン語正書法の確立とカレン語辞書の編纂過程と併せて聖書のカレン語への翻訳における独特の語彙の選択過程について明らかにしていきたい。特にキリスト教への改宗以前のカレン語の用法と比較しながら、翻訳によってどのような西洋的概念をかぶせられ、カレン語の意味範囲が変容していったのかに着目する。
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Causes of Carryover |
妊娠出産により海外渡航による調査ができなかったため。また、その後の育児などにより学会への参加発表も難しかったため。 今年度末に、子どもを連れて短期の海外渡航による調査を行う計画を立てており、その際に繰越金を使用する予定である。
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