2019 Fiscal Year Research-status Report
The Construction of the Database of the "Dreams" which Kumagusu Minakata and Myoe Had and the Comparative Studies of Their Thoughts
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18K12608
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Research Institution | Akita University of Art |
Principal Investigator |
唐澤 太輔 秋田公立美術大学, 大学院, 准教授 (90609017)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 明恵上人 / 河合隼雄 / ユング / 事事無礙 / シンクロニシティ |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、明恵上人の〈夢〉に関する記述を紐解き、そこに見られる共時的現象の記録を中心に調査した。その結果、『伝記』における共時的現象に関する記述は、『夢記』に全く同じ内容を見出すことはできないが、極めて類似する記述が存在するということがわかった。 このような明恵の共時的現象に関する記述を調査する中で、非常に興味深い事柄に気づくことができた。それは、明恵の〈夢〉には、非常に多彩な動物が登場するということである。明恵の〈夢〉における動物を網羅的に捉え言及した研究はこれまでないが、この事実(明恵の〈夢〉における動物の多彩さ)は、明恵の動物観あるいは非-人間への眼差しを知る上で大きなヒントを与えてくれるものである。同時に我々は、その眼差しが華厳思想(事事無礙法界:事物と事物が豊かにつながり合う様態を重視する思想)と深くリンクすることを知ることができるはずである。 このような意図の下、2019年度は、現在までに活字化され刊行されている明恵による〈夢〉の記録を概観し、そこから動物に関する〈夢〉を抽出しリスト化を行なった。その上で、彼の〈夢〉に登場する動物の傾向を考察した。その結果、明恵の多彩な動物に関する〈夢〉の中でも、特に馬、犬、鳥の登場回数が多く、またそれらの動物に関して、彼が独特な解釈をしていることがわかった。例えば、明恵の〈夢〉に出てくる犬は、「黒犬」であることが多く、彼の言葉からは、それが罪業の象徴であることがわかる。それだけではなく、彼が罪業の象徴である黒犬を可愛がり常に側に置いていたことからは、明恵は常に、罪業を切り離すのではなく、自身の事柄として真摯に引き受け、切実にそして真剣に見つめていたということを意味することが読み取れるのである。 このように、明恵の〈夢〉における動物の意味について、作成したリストをもとに研究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述の研究成果は、「明恵の夢における動物の意味」(東洋大学『「エコ・フィロソフィ」研究』2020年3月)に発表した。その中で明恵の〈夢〉に登場する動物をリスト化し公開した。 他には、2019年8月23日に龍谷大学(野呂靖研究室)において華厳研究会を開催し、明恵及び南方熊楠の言説に見られる華厳思想について考察を行った。参加者は野呂靖氏(龍谷大学文学部准教授)と亀山隆彦氏(龍谷大学アジア仏教文化研究センター博士研究員)と唐澤であった。研究会では、最初に唐澤が「共異体と華厳」と題して、従来の「共同体」に代わる「共異体」を、華厳思想の核でもある「四種法界」の概念を用いて読み解くという発表を行った。そして、南方及び明恵の言説に見られる四種法界のエッセンスについて述べた。次に野呂氏より、2019年4月に中之島香雪美術館で発表した「明恵はなぜ夢を記録したか」の講演内容の報告が行われた。亀山氏からは6月に登壇したカオス・ラウンジ主催の講座「シミュレーターとしての夢:明恵から現代美術へ」の発表報告が行われた。本研究会は、今後、報告者が南方および明恵の〈夢〉に関する研究を深化・拡張していく上でも非常に有益なものとなった。 また、2020年2月9日にはユング派分析家協会で「南方熊楠の夢研究」と題して研究発表を行なった。南方の言説から、彼が通常の因果関係を超えた非リニアな「縁」の力について探求していたことを明らかにし、さらに一つの事柄の中に多数が映発する、いわば一即多、多即一という関係について思索を巡らせていたことを考察した。 以上、明恵のみならず、南方の〈夢〉への思考と華厳思想との関係についても、着実に研究を進めることができた。なお、拙著『南方熊楠の見た夢―パサージュに立つ者―』(勉誠出版2014年)が、第13回湯浅泰雄著作賞(2019年度人体科学会)を受賞したことをここに付記しておく。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の研究は、明恵による共時的現象に関する記述の調査から派生し、明恵の〈夢〉における動物に関してリスト化したことが最も大きな成果であった。これによって、明恵の〈夢〉に登場する動物の「傾向」を考察することができた。同時に、それらの動物が、明恵にとってどのような「意味」を持つものだったのかについても研究することができた。また、明恵が経験した動物をめぐる共時的現象と華厳思想との深いつながりについても探求することができた。 2020年度は、具体的には南方熊楠の既刊の日記・書簡・論考を再度読み直し、リスト化(データベース化)を試みる予定である。その上で、そのリストと前年度の明恵に関する研究成果とを比較研究する。そして、南方と明恵の〈夢〉の記録を精査することで、〈夢〉とうつつの「境界」とはいかなるものかを根源的かつ俯瞰的に論究していく。併せて、人間における〈夢〉という現象の普遍的な「意味」について論究し、本研究をまとめていく。
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