2020 Fiscal Year Research-status Report
集合動産担保を活かしうる取引枠組みとは~担保法史と現代実務の横断的研究
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18K12620
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Research Institution | Hannan University |
Principal Investigator |
池田 雄二 阪南大学, 経済学部, 准教授 (50723144)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 担保 / 集合動産 / 倉庫 / 金融 / 元寇 / 日露戦争 / 渋沢栄一 / 担保史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題推進の一環で創設された担保史研究会(以下同研究会)では、世界経営史学会(WCBH)でのセッション報告等による海外活動を目標に国内学会での経験を積むことを方針とし、2021年度の経営史学会関西部会におけるグループ報告が決定された。これに伴い、動産担保法制の立法作業に関わったメンバーを新たに追加し、研究体制を強化した上で、同研究会内では21年3月12日、「担保史の視座から見る経営と法制度」を仮題とする報告会を行った。研究代表者個人は「所有権移転型担保の生成・展開史」を題目とする報告をした。 また我が国では機械や在庫商品を対象とした新たな担保権に関する法改正が今年1月に法制審議会に諮問されており、こうした動きを意識した学会報告の成果の出版を引き続き目指し、構成員の研究内容と担保史全体の把握という全体テーマとの調整を図ったドラフトを作成した。 上記活動とは別に、学士会において「元寇と我が国担保制度~蒙古襲来の危機で動いた担保制度が現代に繋がる」を題目とする報告をした。 以上の活動を通じて次の成果をえた。動産担保金融を発展のキーパーソンである渋沢栄一は静岡藩時代に倉庫を利用した動産担保金融に携わっていたことが判った。フランスの倉庫を利用した動産担保金融の輸入だけでなく、こうした実務上の経験・知見が後の倉庫金融推進の原型となった可能性がある。また危機状態を契機として担保制度にも動きが生じることが多いが、日露戦争を契機に社債担保付信託法、財団抵当法(明治38年)等が制定されたが、一時期を除いてこれらの利用は多くなかったという知見をえた。元寇の危機以後、実務において生成された本銭返(買戻特約付売買)等が普及したことと比較して、担保制度の発展、また現在進行中の動産担保法制改革が成功するためには制度に先行している実務の理解が重要であるという確信をもつことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
成果公表に遅れがある。コロナ禍であるものの、研究成果公表についてはオンラインによって実施できたが、海外報告についてはエントリーできなかったため、国内において経験を蓄積した上で臨む必要が生じ、延期せざるをえない。また成果に関する書籍出版については助成金獲得等において進展できなかった。一方で、日本近世や近代フランスにおける担保金融関連知識を深めることができた。例えば、武士階級の所領は取引対象にできないことは既知だが、実際には取引されており、また担保に供されることもあった。またフランスにおいて銀行が担保金融に積極的に乗り出すのは19世紀以後であることがグループワークによる知見交換等により明らかになってきており、その動向は第一帝政、復古王政、第二帝政、第三共和政といった体制転換と関連している可能性があり、危機状態や体制転換による担保制度の変動という我が国と類似の現象が観察されそうである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は我が国においては近世末期から近代に生じた危機状態における担保制度の動向に注目し、また動産質による集合動産担保が多用される外国、とりわけフランスについて、グループ研究で得られる知見を手掛かりに体制転換が頻発した19世紀の担保制度の動向の把握に努める。その上で引き続き、現在進行中の動産担保制度改正の動向の把握に努めつつ、それを意識した成果公表に繋げて行きたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により予定されていた幾つかの学会、研究会等の学術的会合やフィールドワークを実施できなかったことにより次年度使用額が生じた。 今後の使用計画としてはコロナウィルスの動向を注視し、上記が可能であれば、予定されていた上記活動を実施し、それができない場合には、オンラインを中心にしつつ、文献による知見蓄積に努め、必要な文献購入費用に充てる。
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