2018 Fiscal Year Research-status Report
国家補償法における無過失責任規範の構築可能性の探究
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18K12621
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
津田 智成 北海道大学, 法学研究科, 准教授 (00779598)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 無過失責任 / 国家補償法 / 損失補償 / フランス国家賠償法 / フォートによらない賠償責任 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、我が国の国家補償法において一般的な無過失責任規範を構築することができないかという問題意識の下で、無過失責任規範に関する法学的な議論を先進的かつ広範に蓄積してきたフランス法の判例・学説を網羅的に渉猟することにより、その必要性、根拠論、要件論という三つの側面に着目して、ありうるあるいはあるべき解釈論ないし立法論を探究することを目的とするものである。 本年度は、当初の計画どおり、フランスにおける無過失責任規範である「フォートによらない賠償責任」について、その必要性に着目した研究を行った。具体的には、時に被害者にとって大きな障害となりうるフォートの立証を要しない、フォートによらない賠償責任が主に実効的な被害者救済を可能にするために形成ないし発展してきたこと―19世紀末に兵器工場での労働災害に関して誕生して以来、今日に至るまでその適用範囲を拡大し続けている(犯人追跡中の警察官の武器使用により第三者に生じた損害や薬害による損害等)―や、それがフォートを犯したというスティグマを行政に負わせない点において行政に萎縮効果を及ぼすことを回避しうるという利点を有する反面、行政の責任意識の希薄化を招くおそれがあるという問題点も抱えていることなどを、判例の具体的事例研究及び学説の分析に基づき実証することを試みた。 なお、本研究に関連する業績として、「公害健康被害の補償等に関する法律」の解釈が問題となった最二小判平成29年9月8日民集71巻7号1021頁についての判例評釈を公表した(「公健法上の障害補償費の支給義務と原因者の民事上の損害賠償責任の関係」判例時報2395号(2019年)148-153頁)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記【研究実績の概要】に示したように、本年度は、当初の計画どおり、フランスにおける無過失責任規範である「フォートによらない賠償責任」の必要性に関する研究を進めることができた。また、当初計画にはなかったものの、出版社からの依頼により、本研究とも密接な関連性を有する補償立法についての判例評釈を公表することができた。したがって、本研究は、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、当初の計画どおり、フォートによらない賠償責任の根拠論と要件論についての研究を行う予定である。 まず、根拠論に関しては、伝統的にこの責任の根拠は「リスク」や「公的負担の前の平等」といった観念に求められてきたが、かかる極めて抽象的な観念を示すだけでは比較法研究の材料としては役に立たないことから、それ自体は法的な内容を持たないこれらの観念について、学説がどのような具体的内容を付与してきたのかを理論的に分析し、また具体的事例に沿った判例研究を行うことにより、その内実を浮かび上がらせることを試みる。 次に、要件論に関しては、行政によるリスクの創出ないし引き受け、あるいは公的負担の前の平等の破綻を示すような異常な損害等の要件につき、個々の判例に基づき当該要件の認定の方法を整理し、それに対する学説の評価を分析することにより、当該要件を具体的な形で解明することを目指す。
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Causes of Carryover |
昨年12月上旬に実地調査のためフランスのパリを訪問する予定だったが、11月下旬からフランスのパリで燃料価格の高騰に対するデモが発生し、現地の治安の悪化につき外務省から注意喚起がなされたことから、計画の遂行に支障が生じるおそれがあると判断し、渡航を見合わせた。これにより生じた次年度使用額については、次年度フランスに渡航する費用に充てる予定である。
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