2020 Fiscal Year Research-status Report
国家補償法における無過失責任規範の構築可能性の探究
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18K12621
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
津田 智成 北海道大学, 法学研究科, 准教授 (00779598)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 無過失責任 / 国家補償法 / 損失補償 / フランス国家賠償 / フォートによらない賠償責任 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、我が国の国家補償法において一般的な無過失責任規範を構築することができないかという問題意識の下で、無過失責任規範に関する法学的な議論を先進的かつ広範に蓄積してきたフランス法の判例・学説を網羅的に渉猟することにより、その必要性、根拠論、要件論という三つの側面に着目して、ありうるあるいはあるべき解釈論ないし立法論を探究することを目的とするものである。 本年度は、当初の計画に沿って、これまで2年間行ってきた、フランスにおける無過失責任規範である「フォートによらない賠償責任」に関する研究を、日本法に架橋する作業を行った。具体的には、いわゆる「国家補償の谷間」の問題に対する、国家賠償の適用範囲を拡張するアプローチの可能性(最二小判平成3年4月19日民集45巻4号367頁、東京高判平成4年12月18日高民集45巻3号212頁参照)と、その限界を示した上で、一連の予防接種禍訴訟に係る裁判例を参考に、憲法上の補償責任構成によるアプローチの可能性を分析した。特に、憲法29条3項類推適用説(東京地判昭和59年5月18日判時1118号28頁)、憲法29条3項の「勿論解釈」説(大阪地判昭和62年9月30日判時1255号45頁)、憲法25条1項適用説(名古屋地判昭和60年10月31日判時1175号3頁)等について、フォートによらない賠償責任との関係を整理し、その根拠論や要件論に関する相互関係を明らかにした上で、一般的な無過失責任規範としての妥当性等を検討した。 なお、現在コロナ禍における規制措置等に関する補償の問題についても研究を行っており、当該研究の成果は次年度開催予定の研究会で報告予定である(これに関連する業績として、「緊急事態における裁判所の役割」と題する論文を、判例時報2458号(2020年)142-143頁に公表した)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年10月からフランスのパリ第一大学で在外研究を行っているところ、コロナ禍によるロックダウン等の影響で、資料収集等の現地調査ができない期間があった。また、本年度は、一時帰国し、必要な日本法の資料を収集したり、他の研究者から研究成果についてのフィードバックを得る予定であったが、コロナ禍による入国制限措置等の影響で一時帰国を見送らざるをえなかった。これらの結果として、若干の研究の遅れが生じることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度で当初計画していた研究はほぼ終えているため、次年度は、この研究成果をまとめた論文の執筆と公表作業を行う。9月の本帰国までは、最新の判例や学説の調査等、フランス法に関する補充的な調査を行った上で、論文の仮原稿を完成させる。本帰国後は、必要な日本法の調査を行い、研究会等で研究成果についてのフィードバックを得た上で、上記仮原稿に修正を加える作業を行う。かくして完成させた原稿を、年末までに論文集あるいは雑誌媒体に投稿し、年度末には公表できるようにしたい。
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Causes of Carryover |
上記【現在までの進捗状況】で示したとおり、コロナ禍の影響で、予定していた日本への一時帰国を見送ったため、次年度使用額が生じることとなった。当該残額については、次年度の旅費や、日仏国家賠償法関連の文献の購入費に充てることとする。
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