2019 Fiscal Year Research-status Report
憲法学と歴史学の対話可能性の再検討――戦後経済史学との協働と相克の過程に着目して
Project/Area Number |
18K12623
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
阪本 尚文 福島大学, 行政政策学類, 准教授 (60707800)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 「営業の自由」論争 / 岡田与好 / 高橋幸八郎 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、戦後日本を代表するフランス経済史家、高橋幸八郎(1912-82)とその門下生(岡田与好、二宮宏之、遅塚忠躬など)の歴史研究と憲法学がいかに協働ないし相克したのかを分析することを通じて、歴史学と憲法学が対話を再開するための条件を見出すことにある。 これを達成するために、2019年度は、18年度に引き続き高橋が30~50年代に発受した未公開書簡(高橋書簡)を整理・分析するとともに、高橋の高弟であるイギリス経済史家、岡田与好(1925-2014)が70年代に従来の「営業の自由」理解を痛烈に批判したことを契機にして交わされた、いわゆる「営業の自由」論争の再検討に着手した。 前者では、高橋書簡を資料保存用封筒に入れ整理番号を付すとともに、整理番号、表題、作成年、差出人、差出人住所、受取人が記載された目録を引き続き作成した。高橋書簡は整理終了後、福島大学附属図書館において閲覧可能な状態にする予定である。 後者では、錯綜した論争の構図を整理したうえで、岡田の歴史認識と論争相手(渡辺洋三、今村成和など)の歴史認識とのズレに着目することで、今日では〈営業の自由=公序〉説は「歴史認識としての意義を広く認められつつも、解釈論としては支持を得ていない」 と評されることもある論争の隠れた主題が、実際には歴史認識そのものであったこと、換言すれば、岡田の所論の法学的意義を否定する論争当時の言説自体が特定の歴史観を前提としたものであること、を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「営業の自由」論争の研究は予定通り進んでいるが、高橋書簡が膨大であり整理に多大な時間と労力を要するうえに手書き文字の読解が困難を極めているため、高橋史学の再検討は、予定より遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度も高橋書簡の整理・分析を進めつつ、「営業の自由」論争の再検討を継続する。具体的には、1970年代の後半以降、岡田は「日本社会科学の思想」の歴史的淵源を探るために、研究対象をイギリスのみならず近代日本にも、また研究内容を教育の自由および信教の自由という精神的自由や平等原則にも本格的に拡大していったが、この挑戦が含んでいた憲法論としての潜在力を明らかにすることを試みる。さらに、〈営業の自由=公序〉説的発想が憲法学者に受け入れられた領野が、精神的自由の中でも岡田も意図しなかった表現の自由、とりわけ放送の自由である可能性にも注目したい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行のために、2020年3月に福井県で実施することを予定していた資料収集を延期した結果、その分の旅費が残預金となった。流行が終息したのち、調査を実施する予定である。
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Research Products
(6 results)