2022 Fiscal Year Research-status Report
憲法学と歴史学の対話可能性の再検討――戦後経済史学との協働と相克の過程に着目して
Project/Area Number |
18K12623
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
阪本 尚文 福島大学, 行政政策学類, 准教授 (60707800)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 高橋幸八郎 / 平和主義 / 立憲主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、憲法学が戦後日本を代表する経済史家、高橋幸八郎とその門下生の歴史研究といかに協働ないし相克したのかを分析することを通じて、憲法学と歴史学が対話を再開するための条件を見出すことにある。 本年度は、経済決定論・階級還元論に終始したとみなされる高橋の政治的思惟の解明に精力を傾注した。高橋は、早くも敗戦直後には、政治の基層に位置する憲法とそれが保障する基本的人権への関心を示しており、しかも、今日オーソドックスとなった立憲主義理解を基調とする高橋の憲法思想は、経済的自由にとどまらずに、前文、平等(14条)、97条、そして平和論へと発展していっている。日本国憲法の平和主義と人権規定は密接に結びついており、基本的人権の前提がいかに歴史的に与えられるかを検討することが「封建制から資本制への移行」研究の「窮極の目標」だった、というのが、高橋の憲法思想の到達点であった。 前文に登場する平和的生存権をめぐる議論とは別に、1990年代に、樋口陽一が「自由の問題としての第9条」を論点化し、非軍事化条項としての9条が、象徴天皇制、政教分離と並んで「日本社会における批判の自由を下支えする展望をひらくもの」と位置づけて以来、9条が権利自由の保障に果たしてきた役割は、盛んに議論されてきた 。これらの議論は、安全保障政策との兼ね合いで論じられる傾向にある9条が基本的人権の保障のために果たす対内的機能に、共通して着目している。晩年の高橋は、それらと重なる点をもちながらも、いく分異なる角度から、平和と人権の緊密な連関について、考察を深めていたのであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高橋の政治的思惟と憲法思想の解明する論文を執筆し、学会誌に投稿することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
戦時下における高橋幸八郎の政治思想を明らかにすることに本年度は関心を絞りたい。
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Causes of Carryover |
高橋幸八郎の日記の分析に労力がかかり、岡田与好、二宮宏之関連の文献を収集する余力が乏しかったため。
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Research Products
(7 results)