2018 Fiscal Year Research-status Report
租税法における知的財産権取引の帰属判定ルールの構築に関する日米比較法研究
Project/Area Number |
18K12628
|
Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
谷口 智紀 島根大学, 学術研究院人文社会科学系, 准教授 (50634432)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 租税法 / 知的財産権取引 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、租税法領域における知的財産権取引をめぐる帰属の問題に焦点を当て、アメリカ租税法との比較法研究に示唆を得ることにより、帰属の判定ルールを検討することにある。 知的財産権取引に係る情報が十分に入手されることにより、帰属が適正に判定されなければならない。そこで、とりわけ知的財産権の国際取引をめぐっては、納税者側に情報が偏在化しやすいという特徴があることから、税務調査の実効性を高めるための移転価格税制の手続規定の法整備が重要であるが、わが国の現行法がいかなる問題を抱えているかを明らかにした。 申告納税制度における税務調査は、納税者が申告をした税額が適正かどうかを点検し実質的な担税力を担保するための制度であるが、国家の公権力と私人の基本的人権の衝突する場合であることから、適正手続の保障の法理によって民主的統制が図られなければならない。 ところが、わが国の移転価格税制の手続的側面では、文書化は納税者に事務負担を強いるだけではなく、同時文書化規定の求める一定の水準が担保されない場合には、推定課税及び同業者調査についての質問検査権の行使がなされること、推定課税を破るためには、納税者は自己が算定した価格が独立企業間価格であることを主張立証しなければならないが、このハードルは低いものではないこと、同業者調査に基づいて独立企業間価格が算定又は推定される場合には、シークレット・コンパラブルの問題から、租税争訟の場面で納税者は租税行政庁の主張の根拠であるデータにアクセスできないこと、という問題を抱えている。 移転価格税制の手続的側面は、納税者のコンプライアンスの向上に重点をおいて租税行政庁の権限強化を図るものであり、租税手続法領域における納税者の権利利益の保護という視点を欠いたものに変容している、と明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
わが国の移転価格税制における文書化制度の問題については、アメリカ租税法との比較検討により、わが国の移転価格税制における文書化制度の問題点を指摘するとともに、移転価格税制の手続的側面が、コンプライアンス向上だけではなく、納税者の権利利益の保護の視点から整備されるべきである、との一定の結論を得ることができた。 また、わが国の現行法による帰属の判定ルールについては、先行研究の文献を狩猟することにより、整理・類型化することができた。 今後は、アメリカ租税法との比較法研究に示唆を得て、知的財産権取引が他の経済取引と異なる取扱いを受ける合理的理由を明らかにし、新たな帰属の判定ルールを検討したい。
|
Strategy for Future Research Activity |
わが国における知的財産権取引をめぐる帰属の判定ルールの問題をさらに掘り下げるために、アメリカでの現地調査を行い、わが国の租税法の議論に重要な影響を及ぼすアメリカ租税法との比較法研究に示唆を得て、具体的な問題解決手法を検討する。 具体的には、前年度に引き続き、知的財産権取引に対する課税問題についての文献収集を行う。とりわけ、知的財産権取引課税をめぐる最新の租税法理論に関する文献収集だけでなく、租税法実務に関する文献収集も行う。 また、アメリカ租税法における帰属の判定ルールを解明のためにアメリカにて現地調査を行う。アメリカではいかなる理由に基づいて知的財産権取引をめぐる帰属の判定ルールの法整備がなされているか等についてのインタビューを実施するとともに、大学図書館においてアメリカ租税法及び知的財産法に関する文献収集を行う予定である。 アメリカ租税法との比較法研究に示唆を得て導出できた結論(わが国の現行法による帰属の判定ルールの整理・類型化と、知的財産権取引に対する新たな帰属の判定ルール)についての論文発表や学会報告を行い、最終的な研究成果をまとめあげる。
|
Causes of Carryover |
前年度3月に予定していたアメリカでの現地調査を延期せざるを得ない事情が生じてしまったことにより、同年度内での執行が困難となり次年度使用額が生じた。 同額については、当初予定のとおりアメリカでの現地調査に充てることとし、今年度において執行する予定である。
|