2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K12629
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
田中 晶国 九州大学, 法学研究院, 准教授 (50782950)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 純粋な任意調査 / 税務調査 / 簡易な接触 / 行政調査 / 行政指導 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、従来、あまり顧みられることのなかった租税法学上の「純粋な任意調査」に分類される調査手法についての法的統制の構築を課題としている。本年度の研究においては、日本の純粋な任意調査の現況と米国における税務調査の動向についての調査を行った。現在の日本における純粋な任意調査の概観として、平成17年度では、実地調査が20万件であったのが、平成28年度では7万件にまで落ち込み、一方で、純粋な任意調査は60万件程度で推移している。追徴税額は、平成17年度実地調査による追徴税額が900億程度であったものが平成28年度は700億程度となっている一方で、純粋な任意調査は、70億程度から300億程度と増大傾向を示している。他方で、米国の取組みについても調査を行った。米国でも、簡易な形で納税者に接触することで税務コンプライアンスを達成する様々な手法(Nonaudit Contact)が行われており、計算過誤チェックプログラム、自動過少申告チェックプログラム(AUR)、自動代替申告プログラム(ASFR)がある。その一環として、追徴税額の提示や資料の要求などをぜずに、納税者に対して潜在的な過誤に関する情報を提供し、もし必要であれば、納税者に対し帳簿記録を見直し、必要であれば修正申告するよう依頼するのみである微温的なSoft Noticeアプローチが試行されている。米国でSoft Noticeアプローチが試行されているのは、可能な限り、課税庁の業務量を増大させずに納税者自身によって過誤の修正を行わせることにあり、当該アプローチについて効率性の検証が繰り返し行われており一定の評価を得ている。ただし、否定的な意見としては、課税庁による詳細な事前チェックを経ずに納税者にアプローチが行われているので、納税者側の負担の増大への懸念も表明されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
わが国における純粋な任意調査の現況についての調査を行い、かつ、米国のいくつかのNon Auditアプローチによる税務調査に対する調査を行った。わが国における純粋な任意調査の現況については、その現在の状況を確認した後に、その法制度における建付けについての調査を行った。純粋な任意調査に対する法的統制という視点からは、行政調査の一環として純粋な任意調査・行政指導を位置付けた上で、納税者への積極的接触として質問検査権の行使と行政指導を分類することが有意であるとの感触を得ている。そして、純粋な任意調査としては、納税者への積極的接触へ至る前段階における、各種申告書情報の分析と各種情報の収集・分析についても含む概念として整理し、行政過程全体を見据えた動態的分析を行う必要があるとの結論に至っている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進については、今年度の調査結果を踏まえて、わが国の純粋な任意調査における具体的手法についての研究論文の執筆を進める予定である。さらに、本年度ではあまり取り扱うことができなかった米国のIRSマニュアルを参照した上で、我が国への任意調査に対する法的統制への示唆を得た上で、立法論的展開を視野に入れた研究を進めていく予定である。
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