2019 Fiscal Year Research-status Report
憲法における公務員制度の意義:ヴァイマール共和国期の論議を素材として
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18K12632
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
阿部 和文 大阪市立大学, 大学院法学研究科, 准教授 (40748860)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 憲法 / ドイツ / ヴァイマール憲法 / 官僚制 |
Outline of Annual Research Achievements |
①2019年10月より、ベルリン・フンボルト大学で在外研究に従事している。当地での主たる研究課題は、本研究課題と同じである。 ②本年度中に公表された業績のうち、本研究課題と関連するものとして、単行本『表現・集団・国家 -カール・シュミットの映画検閲論をめぐる一考察-』(信山社)がある。同書は、2013年に学位を授与された博士論文を基としている。出版にあたり、カール・シュミットに関する二次文献を複数参照したが、それらは彼の職業官僚制論を検討する為に収集されたものである。 ③また、大阪市立大学法学研究科の主催する日独法学シンポジウム「デモクラシーと法」(2020年3月開催予定)のために報告の準備を行った。原稿は2月に完成に至った。しかし、新型コロナウイルス対策のために同シンポジウムは開催延期となったため、報告の実施およびその内容の公表は来年度以降となる。 ④以上のほか、2019年度は、引き続きヴァイマール共和国期のドイツにおける職業官僚制をめぐる学説および実務、特に前年度の「推進方策」の記載に従いアルノルト・ケットゲンの主張の検討を行った。 一例として、官吏の政治的表現・活動の自由に関して、彼はヴァイマール憲法第130条(1項で官吏を「全体の奉仕者」と定め、2項で政治的志操の自由・集会の自由を保障する)を、1項が君主制以来の伝統に根ざす官僚制の制度を保障し、2項が自由主義的な原則を導入したものと解釈する。これに基づき、彼は当初、官吏の行動のうち職務上のものは1項による規律を受けるが、職務外のものは2項により立法権に対しても保護されると主張する。しかし、後者の主張は1930年代の著作においては後退し、代わって政党政治からの距離の要請、さらに国家の正統性を支える客観的価値・政治的な実体による拘束を強調するに至っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
[1]上記「概要」②③の通り、助成に基づく研究成果の一部が公表またはその目前の段階にまで到達したこと、また[2]上記「概要」④の通り、主たる検討対象であるケットゲンの主張に関しても、ヴァイマール憲法期の職業官僚制に関する著作を一通り検討し得たこと、他の論者の著作についても半ば以上は検討し得たことに照らすと、本年度に行うべき作業は相当程度において果たされたと考えられる。 しかし、他方で、上記[1]との関係では、専ら本研究課題の主題のみを扱った研究業績をいまだ公表するには至っていない。また、上記[2]との関係では、ケットゲンの職業官僚制に関する主張を、彼の他の主題(大学、地方自治、行政全般)に関する主張と関連づけて包括的に分析し、又は他の論者と包括的な比較する作業はなお完了していない。 以上に鑑みて、上記の通り(2)の評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は研究の最終年度に当たるため、上記「概要」④の作業で得られた知見を論攷に取りまとめ、公表する作業に傾注する。方針としては、ケットゲンの主張の分析を主軸とし、具体的なテーマとしては、議会制民主主義における官僚制の特別の法的地位に関する理由づけ、立憲君主制におけるその法的地位との異同に関する主張、および官吏の政治的な表現・活動の自由を取り上げる予定である。 尤も、その際には、必ずしも有名ではない当時の論者による言説や、当時の官僚制をめぐる社会情勢について、追加の調査を行う必要がある。そうすることによって、ケットゲンの主張が同時代の言説の中でどの程度特殊なものであるのか、またその特殊性や主張の変化がいかなる要因により生じたのかが、よし一層明瞭となるためである。 しかし、2020年4月末の時点で、新型コロナウイルス対策のために当地の大学・図書館・公文書館等は全て閉鎖されている。研究にとって必要なサービスが完全に再開される日程は、不明である。また、状況に応じて、閉鎖措置が今後繰り返される可能性も考えられる。このため、作業に大幅な遅延が生じ、または上記の方針の変更を余儀なくされる可能性がある。
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Causes of Carryover |
当初購入予定であった書籍が会計上の締切までに刊行されず、その分の支出を行わなかったため。
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Research Products
(1 results)