2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K12634
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
長戸 貴之 学習院大学, 法学部, 准教授 (90632240)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 企業支配権移転取引 / 株式交付 / 二段階買収 / 働き方の多様化 / シェアリングエコノミー |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度における本研究課題遂行の成果物としては,主に3点を挙げることができる。 第1に,企業支配権移転取引と課税の関係について考察した論文を2本公表することができた。第2に,働き方の多様化と租税申告納税手続の関係について考察した論文を1本公表することができた。第3に,倒産法と租税法の関係についての判例解説を執筆する機会を得た。 第1の,企業支配権移転取引と課税の関係についての論文では,令和元年会社法改正によって,株式交付の制度が導入されることになったことを受けて,租税法上も株式交付に対応する税制改正がなされることが予想できたため,企業支配権移転取引と組織再編税制の関係性を理論的に考察し,さらに,実定租税法において,企業支配権移転取引における課税のあり方をどのように設計すべきかを具体的に論じた。特に,会社法上の「株式交付」に限定せず,企業支配権移転取引一般について,租税法上,課税繰延措置を認めるべき(認めることが許容される)場合を抽出し,整理する作業を行った。また,既存の我が国における組織再編税制が企業支配権移転取引を主たる対象として念頭に置いたものではないことを指摘した上で,組織再編税制の基本的考え方の更新が必要であり,そのような更新作業は既存の税制の延長線上にあるものとして行うことが可能であると論じた。 第2の,働き方の多様化と租税申告納税手続の関係についての論文では,シェアリングエコノミーの発展や副業の増加に伴い,我が国における現在の個人所得税の申告納税手続や源泉徴収手続と年末調整の仕組みが時代に合わなくなっていく可能性を見据え,英国・米国における個人所得税の申告納税手続の最近の事情を調査した。英国・米国いずれにおいても,これらの働き方の多様化と租税申告手続の関係について,それぞれ異なる事情のもとに試行錯誤をしている最中であり,我が国でも参考にできる点を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は,在外研究先のアメリカにおいて新型コロナウィルスが蔓延し,現地における研究環境を大きく制約され,予定されていた研究会や学会も中止されてしまったため,予定を変更し帰国を早めることになった。当初は,現地研究者からのフィードバックを得つつ,国際課税と知的財産権との関係性について理論的・政策的に考察する論文を執筆することを予定していたが,これをいったん先延ばしせざるを得なくなった。 その代わりに,より日本法に則した議論をする形で,企業支配権移転取引と課税や,働き方の多様化に関する論文を公表することになった。しかし,帰国後も保育園を利用できなくなった期間があり,当初予定していた研究時間をだいぶ失ったため,十分に本研究課題を遂行することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は,租税法と知的財産権・企業法の関係性を考察する研究の一環として,イノベーションを促進するための税制の設計の在り方に関する論文を公表予定である。また,OECDやアメリカ・バイデン政権下における税制改革の帰趨を見定めつつ,国際課税と知的財産権の関係性に関する研究を再開したい。
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Causes of Carryover |
在外研究先のデータベースや電子書籍が充実していたため,文献調査費用が少なかった。また,帰国後は,洋書を購入しようにも,物流が大幅に遅れており,思うように購入することができなかった。さらに,予定されていた出張が全て中止またはオンライン開催となったため旅費もかからなかった。 2021年度も外国での研究会の開催予定自体はあるものの,情勢は流動的である。洋書の物流も相変わらず遅滞しているが,電子書籍で代替できるものについては代替し,研究課題の遂行に支障がないようにしたい。
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