2018 Fiscal Year Research-status Report
違憲審査基準の動態的把握――比例原則との比較に向けて
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18K12635
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
村山 健太郎 学習院大学, 法学部, 教授 (50345253)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 違憲審査の基準 / 審査基準 / 合憲性判断基準 / 第1修正 / 宗教条項 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、合衆国最高裁の諸判例における違憲審査の基準論の展開を検討することで、合衆国の違憲審査の基準論の比較法的特質を明らかにしようとするものである。合衆国における違憲審査の基準論が典型的な展開を見せている代表的な分野は第1修正論であり、本研究の第1工程も、第1修正分野の重要判例の分析にあてられることになった。 平成30年度は、「合衆国憲法における宗教条項解釈と『憎悪』」と題する論文の公表が、最大の成果といえる。同論文は、マスターピース・ケーキショップ判決(Masterpiece Cakeshop v. Colorado Civil Rights Commission, 138 S. Ct. 1719 (2018))と、同判決にいたる宗教条項解釈の変遷について探究したものである。同論文は、以下の点を明らかにした。 マスターピース・ケーキショップ判決は、表現的害悪による市民の平等な地位の棄損という問題を検討することで、信教の自由条項が、政教分離条項とともに、平等保護条項へ統合される可能性を示唆した。しかし、そのような統合的構成は、誰が宗教的少数者か、宗教的少数者は民主的政治過程において常に敗北するのか、という問題を前景化する。さらに、同判決は、違憲審査を憎悪審査で代替した。その結果、反差別法の客観的機能についての検討は不十分なものとなったが、同時に、同判決の射程は必要最低限のものにとどめられた。 マスターピース・ケーキショップ判決は、違憲審査の基準の適用を回避することで、反差別法からの信教の自由を理由とした適用除外がどの程度認められるかという広汎な問題に対して、正面から解答を与えなかった。その結果、性的指向に基づく差別と信教の自由の対抗をめぐる議論の行方は、不透明なままとなった。違憲審査の基準の適用回避は、判決の射程を狭め、司法の自己拘束を弱める機能を有するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画において、本研究の第1工程では、第1修正分野の重要判例を分析する予定となっていた。当初の計画どおり、平成30年度は、直近開廷期中の第1修正分野最重要判例であるマスターピース・ケーキショップ判決を基軸として、同判決にいたる第1修正解釈の変遷を分析した。 一方で、平成30年度の成果は、当初の計画以上に進展している。第1に、同判決の検討を通じて、第1修正の信教の自由条項のみならず、国教樹立禁止条項についても考察することができた。第2に、第1修正のみならず、第1修正と第14修正の平等条項との関係についても分析を加えることができた。 他方で、平成30年度の成果には、やや遅れている部分もある。すなわち、平成30年度中は、第1修正の表現の自由条項についての分析に正面から取りくむことはできなかった。表現の自由条項解釈についての判例法理の理解については、次年度以降の課題となる。 以上のような理由から、研究の全体的な状況としては、おおむね順調に進展していると評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、①合衆国における表現の自由条項と違憲審査の基準論の分析、②合衆国における違憲審査の基準とドイツにおける比例原則の関係の分析、③日本における主要な判例・学説における違憲審査の方法の分析をすすめていくことになる。 ①については、合衆国において特徴的な議論を展開している、ロバーツ合衆国最高裁首席裁判官やトマス陪席裁判官の議論を基軸に分析を進めていきたい。②については、アレクシの『憲法上の権利の理論』の重要な部分を分析したい。③については、千葉勝美や高橋和之の言説の分析を進めると同時に、表現の自由や信教の自由を中心とした自由権分野の判例の分析、さらには、平等権分野の判例の展開も視野にいれた分析を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
本年度の研究に必要な書籍の選別が年度末時点で完結しなかったため、若干の次年度使用額が生じた。本年度残額については、次年度支出分とあわせて、書籍等必要な物品の購入費用や、出張経費として利用する。
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Remarks |
平成30年8月31日 「第1回ポピュリズム憲法学と立憲主義に関する総合的研究研究会」(主催:木下智史関西大学教授)において、本研究の一部を報告。平成30年12月15日 「第34回合衆国最高裁判所判例研究会」(主催:紙谷雅子学習院大学教授)において、本研究の一部を報告。平成31年3月14日 「第10回現代立憲主義の諸相研究会」(主催:高橋和之東京大学名誉教授)において、本研究の一部を報告。
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