2022 Fiscal Year Research-status Report
アラブ世界の国際法受容に対しシリア・レバノン系知識人が果たした役割についての研究
Project/Area Number |
18K12645
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
沖 祐太郎 九州大学, 法学研究院, 専門研究員 (90737579)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 国際法の受容 / シリア・レバノン / エジプト / アラビア語国際法学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1890年代から1920年代にかけてシリア・レバノン系の移民によって著された国際法関連著作の執筆状況の全体像とその特徴の解明を目指したものであ る。現地での文献調査が本研究の核であるが、やはり新型コロナウイ ルスの流行、および渡航制限により関連地域、特にレバノンやアルゼンチンでの十分な調査活動は困難であった。そこで代替的な調査地と考えていたエジプト、ヨルダン、UAE、カタール、トルコにおいて調査活動を行なった。具体的には、各国で出版されている国際法関連著作をもとに、19世紀末から20世紀初頭の状況にまで遡り、シリア・レバノン系の人々が学説形成に果たした役割を検討した。 こうした研究の成果については、まず鈴木啓之ほか編『遺産と中東』(東京大学中東地域センター、近刊)に「アラビア語圏における国際法受容の初期段階ーアラビア語国際法関連書籍の出版と私人による国際法知識の利用ー」との論考を寄稿し、その前半部分において彼らの役割の全体像を示した。また、『近代国際秩序形成と法ーー普遍化と地域化のはざまで』(慶應義塾大学出版会、2023年7月刊行予定)にも「一九世紀エジプトの知識人による国際法使用ーームスタファ・カーミルのスーダン協定批判を題材に」との論稿を投稿している。さらに、エジプト・カイロ市においては、同様のテーマにつき報告を行い、現地からのフィードバックを得た。加えて、研究の過程では国際法の主要概念に対する理解、例えば「領域」など、に注目して検討を行っていたが、本研究の副次的な産物としてトルコの領土問題についての論文を2本執筆し、一本は公刊済み(「イミア/カルダックをめぐるトルコ・ギリシャ間の紛争」『島嶼研究ジャーナル』12巻2号)、もう一本は近日中に公刊予定(「トルコ・ギリシャ間のエーゲ海・東地中海諸紛争」『法律時報』第95巻6号)である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本来の研究目的であった、シリア・レバノン系移民のアラビア語での国際法学の発展に対する役割という観点からは本研究は遅れ気味である。しかし、代替的な諸地域(エジプト、ヨルダン、UAE、カタール、トルコ)での調査活動、その調査をもとにした研究によって、アラビア語圏、あるいはより広く中東の国際法の需要という観点からの研究は、当初の予定よりも進捗している。特に、領域紛争に関するトルコの外交政策の分析は公表論文としても一定の蓄積ができてきたため、今後も一層の発展を期待できる。また、シリア・レバノン系移民の国際法関連著作に関しても、エジプト及びヨルダンにおいて検討の対象とすべき資料は一定程度確保できたため、最終年度に同資料の分析を行い、これまでの研究成果と統合することを目指したい。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度ではあるが、現地での調査を改めて試み、それによって関連資料の充実を図る。それとともに、これまで本研究の研究成果として公表してきたものは、いずれもシリア・レバノン系移民の貢献を一部扱うものではあるが、このテーマのみを直接かつ網羅的に検討したものではない。そこで、本年度は、シリア・レバノン系移民のアラビア語国際法学における貢献に特化した論文を公表し、本研究課題のまとめとする。
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Causes of Carryover |
当初予定していたレバノン、アルゼンチンなどへの出張が実施できなかったことによる。
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