2019 Fiscal Year Research-status Report
Temporal and Material Scope of Self-Defence short of Armed Conflict
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18K12647
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
廣見 正行 上智大学, 法学部, 研究員 (20707541)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 自衛権 / 国際法 / 安全保障法 / 武力紛争法 / 中立法 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一次世界大戦以前の伝統的国際法は、国に「戦争に訴える権利」を認めていたため、自衛権は、戦争の正当化事由としての法的意義を有しなかった。これに対し、連盟規約及び不戦条約は、いずれも戦争意思の表明に基づいて成立する(法律上の)「戦争」を禁止するものと解釈される余地を残していた。そのため、これら条約の禁止する「戦争」に該当しない「戦争に至らない武力行使(use of force short of war)」を行っているとの口実の下、第二次世界「大戦」が「発生」するまでの間、満州事変やズデーテン侵攻が行われた。これら武力行使は、戦時国際法(jus in bello)の適用を免れる口実としては機能する一方、平時国際法違反であるとの批判を受ける可能性があった。そこで、平時国際法違反の違法性阻却事由または正当化事由として自衛権が用いられたのである。ここにおいて、「戦争に至らない武力行使」が、戦時国際法(jus in bello)の適用を免れる(すなわち「戦争」状態を生じさせない)一方、自衛権(jus ad bellum)の適用において平時国際法違反の違法性が阻却される、あるいは正当化されるという論理が成立する余地が残されている。また、これらの武力行使が、規模や効果において限定的な意図を持っていたことも注目に値する。2019年度は、「武力紛争に至らない自衛権」概念の萌芽となった、満州事変やズデーテン侵攻における「戦争に至らない武力行使」概念を分析した。その結果、同様の論理は、国家責任条文第21条(自衛の場合の違法性阻却)に反映されているとの仮説に至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度も、引き続き、本研究の基盤となる「戦争(状態)」と「平和(状態)」、「戦争」と「武力行使」、「自衛権」といった基本的概念が、①第一次世界大戦以前の伝統的国際法においてどのように理解されてきたか、②それらが連盟規約及び不戦条約を契機としてどのように変容したか、を具体的な事例と当時の歴史的資料・文献に基づき、分析検討した。 その結果、主に、満州事変における我が国の外交文書や国際連盟の資料から、①「戦争に至らない武力行使」が、戦時国際法の適用を免れ、戦争(状態)を発生させないことを意図したものであること、②当時、第三国も、日中間に戦争(状態)が発生していないとみなしていたこと、その上で、③自衛権は「平和(状態)」において適用される平時国際法に違反する武力行使の違法性阻却事由としての法的機能を意図して主張されたこと、を明らかにした。また、同様の論理は、国家責任条文第21条に反映されているとの仮説に至った。国家責任条文第21条は、自衛の場合の違法性阻却について定めている。2019年度は、同条文を起草した国連国際法委員会(ILC)の報告書等を調査分析し、国家責任法の文脈においてILC委員の間で「自衛」権概念の理解に対立があったことを明らかにした。国家責任法の文脈における自衛の研究は今後、進展させる予定である。 他方で、ナチス・ドイツによるズデーテン侵攻、チェコスロバキア併合等の事例については、未だ資料収集の段階にある。2019年度は、新型コロナウィルスの影響で、現地における調査や資料収集ができなかった。戦前の日本とナチス・ドイツによる当時の国際法の解釈が「符号」することによって、「戦争に至らない武力行使」の論理を証明することが本研究にとって鍵となるが、2019年度は主に国内及びインターネットによる調査にとどまったため、やや進捗が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、①ナチス・ドイツによるズデーテン侵攻及びチェコスロバキア併合等の事例における「戦争に至らない武力行使」概念を研究する。この研究を、満州事変における日本の主張と「符号」させることによって、戦間期当時における「戦争(状態)」や「自衛権」といった国際法概念の解釈を明らかにする。この研究は、当時、チェコ併合を容認した英国等の公文書やニュルンベルク国際軍事裁判所の判例等を調査・分析することによって行われる。 その上で、②戦間期に用いられた「自衛権」概念が、戦後の現代国際法において、国家責任条文第21条に反映されていることを明らかにする。国家責任条文は、国連国際法委員会(ILC)で審議され起草されたところ、同条の採択にあたって、いかなる自衛権概念が念頭に置かれていたのかを明らかにする。 最後に、③国家責任法の文脈における自衛権が用いられたと考えられる事例として、国際司法裁判所「オイル・プラットフォーム」事件を分析する。本件では、武力紛争法における「交戦国(紛争当事国)」と「中立国」との区別を前提として、中立国が交戦国間の戦争に巻き込まれないために行使する自衛権が問題となっている。中立国は、交戦国の戦争目的のために自国領域を利用させないようにする避止義務を負う。この避止義務を遵守するため、自国領域をいわゆる侵略しようとする交戦国に対し、中立国は、自衛権行使の下、武力を行使しうる。しかし、当該武力行使によって必ずしも中立国としての地位が失われるわけではないと考えられる。中立国による交戦国に対する自衛権行使の事例を検討することによって、最終的に、国際武力紛争に至らない自衛権行使の事項的・時間的範囲を明らかにすることができると思われる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの影響により、予定していた在外調査を2019年度中に実施することができなくなったため。次年度使用額が生じた額については、新型コロナウィルスが収束し次第、中止した在外調査の実施に当てることととしたい。
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