2020 Fiscal Year Research-status Report
Temporal and Material Scope of Self-Defence short of Armed Conflict
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18K12647
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
廣見 正行 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (20707541)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 国際法 / 自衛権 / 安全保障法 / 武力紛争法 / 中立法 |
Outline of Annual Research Achievements |
1949年の戦争犠牲者に関するジュネーヴ諸条約及び1977年のジュネーヴ第一追加議定書の適用上、国際的武力紛争は、その期間や烈度(intensity)にかかわらず、「二国間に発生し、かつ、軍隊の介入を伴う」場合に発生するものとされている。しかしながら、すべての「軍隊の使用」が当然に国際的武力紛争を発生させるわけではないとする学説も存在する。軍隊が使用される一方で、国家実行において「国際的武力紛争」とはみなされない行為、たとえば戦闘機による領空侵犯や歩哨の撃ち合い、国境衝突などの行為が存在する。本研究は、このような行為は、国際的武力紛争を発生させず平時国際法の規律を受けること、また、平時国際法の違反に関しては自衛により違法性が阻却されることを明らかにするものである。 2020年度は、新型コロナウィルス感染症の流行のため、海外における調査・インタビューができなかったこともあり、主として違法性阻却事由としての自衛について定める国家責任条文第21条に関連する国連国際法委員会の資料や論文を調査分析した。その結果、同条の違法性阻却は、自衛権行使の結果として生じうる平時国際法違反の違法性阻却を含むことが明らかとなった。(ただし、同条文は国連総会において留意されたにとどまり、条約ではないため、同条の定める趣旨が実際に主張され用いられた事例を見る必要は残されている。)また、国際的武力紛争を発生させるか否かの認定において、自衛における武力行使の期間と烈度の2つの基準(criteria)が関係しうることが明らかになった。さらに、これらの基準が、一般国際法における自衛権行使の要件である必要性・均衡性原則等の諸原則と何らかの関係性を有しうるとの仮説に至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2018年度及び2019年度は、本研究の基盤となる「戦争(状態)」と「平和(状態)」、「戦争」と「武力行使」、「自衛権」といった基本的な国際法の概念が、①第一次世界大戦以前の伝統的国際法においてどのように理解されてきたか、②それらが連盟規約及び不戦条約を契機としてどのように変容したか、を具体的な事例と当時の歴史的資料・文献に基づき、分析検討してきた。その結果、①「戦争に至らない武力行使」は、戦時国際法の適用を免れ、戦争状態を発生させないこと、②伝統的に自衛権は「平和状態」において適用される平次国際法に違反する武力行使の違法性阻却事由としての法的機能を有していたことが明らかとなった。 2020年度は、国連憲章採択後の国際法に着目し、具体的に2001年に国連国際法委員会(ILC)で採択され、国連総会が留意した国家責任条文の第21条(自衛に基づく違法性阻却事由)において同様の論理が妥当しているとの仮説を証明するため、ILCの資料分析を行なった。しかしながら、昨年度末より続く新型コロナウィルス感染症の蔓延のため、2020年度も、ナチス・ドイツによるズデーテン侵攻、チェコスロヴァキア併合等の事例に関する海外での調査ができなかったため、国家実行の収集分析ができていない状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、第一次世界大戦以前、戦間期、第二次世界大戦後の3つの時代区分における自衛権概念を踏まえた上で、現代においても「国際的武力紛争に至らない自衛権行使」が可能であり、平時国際法違反から生じうる違法性が阻却されうる理論的根拠と国家実行とを明らかにする。戦間期の自衛権概念を明らかにするためには、チェコ併合を容認した英国等の公文書やニュルンベルク国際軍事裁判所の判例等の戦間期の国家実行等を調査・分析する必要がある。また、国家責任条文第21条の起草過程についての分析は既に進めているところ、実際に違法性阻却事由として自衛が用いられた事例の分析を行う必要がある。この事例として、国際司法裁判所「オイル・プラットフォーム」事件がある。本件は、イラン・イラク戦争中のペルシャ湾を航行中の米国軍艦が自衛権行使としてイランの油井に武力行使を行なったところ、米国は中立国であることを主張していた。従来のジュネーヴ諸条約等の理解では、期間や烈度にかかわりなく、一国が他国に武力行使を行なったとき、国際的武力紛争が発生する(したがってイランとの関係において、米国は中立国から交戦国となる)はずである。しかしながら、実際には、米国は交戦国となっていない。2021年度は、この事件を素材として、中立国による交戦国に対する自衛権行使についても研究を行いながら、国際的武力紛争を発生させない自衛権行使の要件(期間や烈度)を明らかにする。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の影響により、予定していた在外調査を2020年度に実施することができなくなったため。
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