2019 Fiscal Year Research-status Report
公判外供述の証拠使用の場面における証人審問権の役割に関する研究
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18K12656
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大谷 祐毅 東北大学, 法学研究科, 准教授 (80707498)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 証人審問権 / 伝聞法則 / 刑事証拠法 / 英米証拠法 / 欧州人権条約 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成31年度・令和元年度には,前年度の研究成果を踏まえつつ,研究課題について詳細な比較法的検討に着手した。 アメリカ法に関しては,特に2004年のCrawford判決以降の議論に注目した。同判決の分析からは,対面権を供述証拠の信頼性の確保を目的とするものと捉えつつ,対面権が供述証拠が信頼できることを直接的に保障するのでなく,事実認定者が供述証拠の信頼性を十分に吟味できることを保障するものと考える理解が示唆される。Crawford判決は,さらに,その理解に立った上で,そのことを最も良く達成しうる手段たる反対尋問手続それ自体が憲法上保障されていると考えているものと位置付けられるだろう。 同様の理解は,欧州人権条約6条3項dの権利に関する欧州人権裁判所判例,及びその影響を受けるイギリス及びドイツにおける議論にも見出すことができる。すなわち,そこでは,公判外供述の証拠使用の際に生じる不利益証人を尋問する(尋問させる)権利の制約の正当化の判断等にあたって,手続の公正さという概念のもとで,事実認定者が問題の供述証拠の信頼性を評価することを容易にするような要素が存在していることが大きく考慮されている。同権利を供述証拠の信頼性という観点との関係で捉えつつも,供述証拠の信頼性を事実認定者が十分に確実に評価できるかどうかが本質的な問題と考えられていると評価できよう。 比較法的検討としてはなお検討すべき課題は多く残されているものの,平成31年度・令和元年度には,以上の基本的な分析に依拠して,我が国における公判外供述の証拠使用の場面における証人審問権の役割について考察を行い,一定の成果を論文として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は,①証人審問権が保護する本質的な「価値」は何か,②証人審問権による規律は伝聞法則による規律とどのような関係に立つか,という点を解明す ることを主たる目的としている。平成31度・令和元年度には,その目的達成のため,詳細な比較法的検討を計画し,それらを実施し,さらに,その成果を元に,現時点での研究成果を公表することもできた。 今年度の研究成果は,右の目的との関係では次のような意味を持つ。 ①証人審問権の趣旨理解において,供述証拠の信頼性の確保という伝統的な理解と親和的な理解を維持しつつも,その内実について,供述証拠が信頼できることそれ自体が保護されているのではなく,供述証拠の信頼性の事実認定者によるより確実な評価の可能性が保護されているのであるとの理解が可能であることを確認した。そして,②供述証拠の信頼性それ自体の確保を趣旨とすると一般に考えられている伝聞法則との関係についても,右の証人審問権の趣旨理解を前提に考察することが可能である。こうして,①②の目的達成に有用な知見を獲得することができた。 なお,今年度には,アメリカ及び欧州における現地調査を予定していたところ,新型コロナウイルスの感染拡大の影響で,その予定を取りやめざるを得なくなった。その代わりに次年度以降に予定していた作業を前倒して行ったり,外国書籍を購入し研究を進めたりしているものの,この点で研究計画が全て順調に進んでいるとはいえない面がある。しかし,この現地調査は,令和元年度又は2年度に行うことを予定していたものであり,現時点での計画の修正等は,なお許容しうる範囲内におさまっているものと考える。 以上の理由から,上記のように評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き研究課題について比較法的検討を行っていく予定である。 また,令和2年度には,既に行った比較法的検討を深めるため,アメリカ及び欧州(特にフランス及びイギリス)における資料収集・現地調査を実施する予定である。 さらに,次年度以降は,研究課題に関して,証人の保護などの実際的な課題との関係も併せて検討を深め,新たに研究成果を取りまとめて公表することを目指す。
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Causes of Carryover |
今年度には,アメリカ及び欧州(特にフランス及びイギリス)に現地調査のための出張に行くことを予定していたが,新型コロナウイルスの感染拡大によってそれを取りやめざるを得なかった。このことが次年度使用額が生じた主たる理由である。 次年度は,右の現地調査のための出張を改めて計画しており,この出張旅費等として80万円程度を予定している。さらに,アメリカ・イギリス・ドイツ・フランスにおける公判外供述の証拠使用の場面における規律を検討するため,各国の証拠法関連図書を10-20万円ずつ程度購入する(60万円程度)。
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Research Products
(5 results)