2020 Fiscal Year Research-status Report
公判外供述の証拠使用の場面における証人審問権の役割に関する研究
Project/Area Number |
18K12656
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大谷 祐毅 東北大学, 法学研究科, 准教授 (80707498)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 証人審問権 / 伝聞法則 / 刑事証拠法 / 英米証拠法 / 欧州人権条約 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度には,特に近時多くの議論が蓄積している児童等の供述の証拠使用のあり方に関する議論を中心に,前年度までのアメリカ及び欧州(イギリス・ドイツ)における議論の検討を深めるとともに,新たにフランスにおける公判外供述の証拠使用に関する検討を行った。その上で,これらの成果を前提として,我が国における証人審問権の役割についての考察に取り掛かった。 我が国では,従来一般的に,証人審問権は供述証拠の信頼性の確保を趣旨とする権利であると理解されてきたところ,証人審問権に相当する被告人の権利に関するアメリカ及び欧州における議論について検討を加えた前年度の成果を前提とすれば,それとは区別されるところの,事実認定者による供述証拠の信頼性の確実な評価可能性の確保を趣旨とする権利であるとの理解が導かれよう。 証人審問権の役割如何という問題は,証人保護の文脈や,特に近時問題とされている司法面接的手法により聴取した供述の証拠利用の在り方に関しても,重要な意義を持つ。たとえば,上述の証人審問権についての理解を前提としてさらに考察すれば,公判外供述を公判における主尋問に代替して用いる手法は,必ずしもそのことのみで証人審問権の保障を満足させるものではなく,公判における事後的な反対尋問における証人の応答等を含めて,事実認定者が供述証拠の信頼性をより確実に評価することを可能とする要素が十分に存する必要があるといえるだろう。 令和2年度には,以上の検討の成果の一部を公表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は,①証人審問権が保護する本質的な「価値」は何か,②証人審問権による規律は伝聞法則による規律とどのような関係に立つか,という点を解明することを主たる目的としている。令和2年度には,その目的達成のため,詳細な比較法的検討を実施するとともに,我が国における証人審問権の役割についての考察に取り掛かり,その成果の一部を公表することもできた。 今年度の研究成果は,右の目的との関係では次のような意味を持つ。 ①証人審問権の趣旨理解において,供述証拠の信頼性の確保という伝統的な理解と親和的な理解を維持しつつも,その内実について,供述証拠が信頼できることそれ自体が保護されているのではなく,供述証拠の信頼性の事実認定者によるより確実な評価の可能性が保護されているのであるとの理解が可能であることを確認した。そして,②供述証拠の信頼性それ自体の確保を趣旨とすると一般に考えられている伝聞法則との関係についても,右の証人審問権の趣旨理解を前提に考察することが可能である。こうして,①②の目的達成に有用な知見を獲得することができた。 なお,令和2年度には,新型コロナウイルスの感染拡大の影響で延期していたアメリカ及び欧州における現地調査を予定していたところ,なおそれは困難な状況にあり,その予定を取りやめざるを得なくなった。もっとも,外国書籍を購入し研究を進めたりすることである程度はこれを代替することができていると考えており,現時点での計画の修正等は,なお許容しうる範囲内におさまっているものと考える。 以上の理由から,上記のように評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き比較法的検討を行っていくとともに,最終年度にあたる令和3年度には,研究課題に関して,証人の保護などの実際的な課題との関係も併せて検討を深め,新たに研究成果を取りまとめて公表することを目指す。
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Causes of Carryover |
令和2年度には,新型コロナウイルスの感染拡大によって前年度に断念した,アメリカ及び欧州(特にフランス及びイギリス)における現地調査のための出張を改めて予定していたが,なお海外渡航が困難な状況にあり,それを取りやめざるを得なかった。このことが次年度使用額が生じた主たる理由である。 次年度は,右の現地調査のための出張を改めて行うか,代替的にそれを補う形で幅広く外国書籍を購入することを予定している(50万円程度)。さらに,アメリカ・イギリス・ドイツ・フランスにおける公判外供述の証拠使用の場面における規律を検討し,加えて研究の総括を行うため,各国及び我が国の証拠法関連図書を10-20万円ずつ程度購入する(60万円程度)。
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Research Products
(1 results)