2019 Fiscal Year Research-status Report
被疑者供述の獲得・使用に対する法的規制――自白法則の歴史的・比較法的検討
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18K12658
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
川島 享祐 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 准教授 (90734674)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 自白法則 / 証拠法 / 取調べ / 任意性 / 刑事証拠法 / 比較法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は,①自白法則がいかなる理論的構造を有しているのか,及び,②いかなる判断基準の下で自白の証拠能力が判断されるのか,という問題を主たる検討対象とするものである。令和元年度の検討の中心は①であったが,下記のとおり,当初の計画以上に研究を進展させることができた。 まず,今年度の前半には,当初の予定通り,自白法則の理論的構造に関して,イギリス法,オーストラリア法,カナダ法の検討を行った。これら3国の自白法則は,いずれも自白の信頼性に着目する信頼性原理を基調としているが,自白排除の判断基準として伝統的な「任意性」概念を用いるかといった点に差異がある。これらを比較検討することにより,信頼性原理の内実やそこから導かれる判断枠組みを明らかにした。 これらの研究が比較的順調に進行したことから,今年度の後半には,自白法則の理論的構造に関して,アメリカ法とドイツ法の検討を行った。この検討により,ドイツ法においては専ら「意思決定及び意思活動の自由」に着目した判断がなされているのに対して,アメリカの判例においては,「任意性」概念の下で,様々な自白排除の理論的根拠が主張されていることを明らかにした。 さらに,今年度には,この2年間に得られた歴史的・比較法的知見を総合し,日本法の下では,「任意性」概念に過度に依存することなく,複数存在する自白排除の理論的根拠ごとに自白排除の可能性を検討していくべきである旨の提言等を行った。 これらの研究成果は,法学協会雑誌上に公表するとともに,その要旨について,日本刑法学会第97回大会において個別研究報告を行うことができた。 また,本年度には,当初の予定を変更してドイツに出張し,現地の研究者等に対してインタビューをするとともに,裁判所における現地調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「研究業績の概要」欄で述べたように,当初の計画以上に調査・研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度には,当初の計画以上に,①自白法則がいかなる理論的構造を有しているかの検討をすることができた。来年度以降は,②判断基準の問題について研究を進めるとともに,自白法則に限らず,広く「被疑者供述の獲得・使用に対する法的規制」という観点から,歴史的・比較法的検討を行う予定である。また,今年度は,当初予定していたイギリス及びアメリカへの出張を実施することができなかったが,来年度はこれを実施し,裁判傍聴や現地法曹へのインタビュー等を行うことを計画している。
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Causes of Carryover |
今年度は研究成果を公表する機会に恵まれた反面,調査資料の収集・検討の比重が相対的に低かったこと,また,「若手研究における独立基盤形成支援(試行)」の助成金により調査資料を収集することができたことなどから,上記の次年度使用額が生じた。来年度は,引き続き調査資料の収集を行うとともに,イギリス及びアメリカにおける現地調査を行う予定である。
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