2019 Fiscal Year Research-status Report
証拠開示制度の実効性を支える諸方策と当事者主義-米国諸法域の法制の比較研究-
Project/Area Number |
18K12663
|
Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
三明 翔 琉球大学, 法務研究科, 准教授 (60635176)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 証拠開示 / 刑事訴訟法 / 当事者主義 / 検察官 / アメリカ合衆国 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アメリカ合衆国の諸法域(連邦・州)の証拠開示等の法制の比較を通じて、①証拠開示の遺漏なき実効的な実施のための方策や運用、及び、②検察官による証拠開示と当事者主義の関係の理解等に関して示唆を得ようとするものであるところ、研究期間3年中2年目となる本年度は、当初の計画通り、合衆国に赴き現地での調査を行った。 具体的には、令和元年5月にハワイ州へと渡り、約10カ月間、ハワイ大学ロースクールの客員研究員として、同ロースクールのローライブラリーでさらなる文献調査を行うとともに、ハワイ州の研究者・実務家等に対して聞き取り調査などを行った。文献調査ではハワイ州法の証拠開示規定の分析を進め、同州法がABAモデル第1版を基礎としつつも、いくつかの規定で連邦法で用いられているのとほぼ同じ文言を使用し、開示の範囲を限定していることなどを確認した。 聞き取りは、州法の規定の趣旨、実際の証拠開示実務、オープンファイル・ポリシーとよばれる一部の州で採用されている広範な証拠開示実務の妥当性、開示漏れの原因と検察官の過度の当事者性の影響の有無などに関して、イノセンス・プロジェクトのディレクターを務める同ロースクール教授、ハワイ州検察官・裁判官(オワフ島、ハワイ島)、検察官として執務経験のある連邦裁判所裁判官などに対して行った。検察官らへの聞き取りの結果、州法上要求されるよりもかなり緩やかな任意開示が行われているようであることが判明した。また、2010年以降、連邦司法省内で導入された、憲法上要求される証拠開示を担保するための施策の具体的内容や運用についても一部知ることができた。 本年度は本研究に直接関連する学会報告・論文発表はしていないものの、次年度での学会発表・論文発表に向けて準備を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通りアメリカ合衆国に赴き、比較的長期にわたり現地調査を行うことができたため、概ね順調に進展している。ただしこれまではハワイ州及び連邦法域の証拠開示法制・実務の分析にとどまっている。アメリカ合衆国の他州における調査の必要があるが、これについては次年度において補充的に実施することを予定している。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は研究期間の最終年度である。令和2年度は、これまでの調査の結果にさらに分析を加えるとともに、日本の法制実務の変化を調査した上で、学会・研究会での報告、そして論文の公刊により、その成果を発表することを予定している。 当初は、令和2年5月に日本刑法学会第98回大会のワークショップ「証拠開示の到達点と課題」の報告者の一人として、アメリカ合衆国の証拠開示法制と実務に関して報告を行う予定であったが、新型コロナウィルス感染症の拡大のため、同大会が延期又は中止されることが3月下旬に決まった。また、研究成果の報告の場として念頭においていた所属研究会も、5月まで相次いで中止・未開催とされた。さらに4月下旬の緊急事態宣言の拡大により大学研究室の利用も制限された。 こうした事情からすると同感染症を巡る情勢次第では、次年度の学会・研究会の報告が容易でない可能性もある。また、当初の計画では、補充的な調査として再びアメリカ合衆国で現地調査をすることも予定していたが、同様の理由から容易でない可能性がある。そこで、さしあたっては論文として発表可能な調査研究から先に成果を形にしていく予定である。
|
Causes of Carryover |
本年度は、アメリカ合衆国での調査のため年度の大部分を現地に滞在していた。そこで研究で使用する書籍・物品について研究費を執行するためには立替払いを行う必要があったところ、琉球大学内のルールでは、一定基準額以上の書籍・物品の購入は立替払いが許されていない。そのため、例えば、基準額を超えるノートパソコン等の研究用物品の購入は本年度は差し控えることとした。また、大学内の研究室に滞在することが本年度は少なかったため、研究室の研究環境の整備等のための研究用図書や収納材等の購入は次年度にまわすことにした。このような理由から次年度の使用額が生ずる結果となった。次年度はノートパソコン等の基準額を超える研究用物品を購入するほか、国内での研究が中心となるため研究室整備を進める予定であり、助成金は予定通り支出されるものと考える。
|