2020 Fiscal Year Research-status Report
証拠開示制度の実効性を支える諸方策と当事者主義-米国諸法域の法制の比較研究-
Project/Area Number |
18K12663
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
三明 翔 琉球大学, 法務研究科, 准教授 (60635176)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 証拠開示 / 刑事訴訟法 / 当事者主義 / 検察官 / アメリカ合衆国 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アメリカ合衆国の諸法域(連邦・州)の証拠開示等の法制の比較を通じて、①証拠開示の遺漏なき実効的な実施のための方策や運用、及び、②検察官による証拠開示と当事者主義の関係の理解等に関して示唆を得ようとするものである。 本年度は研究期間3年中の最終年度であり、補充的な現地調査を行うとともに、これまでの調査研究の成果を発表する計画であったが、新型コロナウィルス感染症の拡大により、海外調査ができず、またワークショップでの報告を予定していた学会が中止になるなど、研究計画の変更を余儀なくされた。そこで本年度は、研究実施期間の延長申請を前提に、昨年までに収集した資料及び国内から入手できる資料をもとに文献調査を中心に行った。 合衆国では先例上、検察官には被告人に有利で重要な証拠について合衆国憲法上の開示義務があると解されているが、その実効性には理論的にも近年の誤判事例からも疑念が生じてきており、これまで各機関・各法域でその実効性確保のための試みが行われていたが、本年度は連邦法域に大きな動きがあったことが分かった。即ち、連邦議会が上記合衆国憲法上の開示を担保することを目的に、全て刑事事件において、裁判官は、検察官・弁護人の出席する最初の手続期日において、当事者に対し、検察官の憲法上の証拠開示義務の検察官の開示義務について確認する命令及び当該命令に反した場合に適用法の下で生じうる結果を確認する命令を発しなければならないとするデュー・プロセス擁護法とよばれる連邦法(Due Process Protections Act)を制定したのである。この立法の経緯・趣旨及びこれに影響を与えたと考えられるニューヨーク州の類似の実務について調査し、当該立法の実効性という観点から分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウィルス感染症の拡大の影響により、令和2年5月に予定されていた日本刑法学会第98回大会が中止されたため、同学会ワークショップ「証拠開示の到達点と課題」における本研究に関わる発表(「アメリカの刑事証拠開示制度に関する近年の動向ー憲法上要求される検察官の証拠開示とその担保という観点からー」)を行うことができず、それに伴い、発表後に予定していた論文投稿も後ろ倒しとなり、研究業績の発表ができなった。また同じく新型コロナウィルス感染症拡大のため、予定していたアメリカでの補充的な調査も実施できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年5月に日本刑法学会第99回大会が開催される予定であり、昨年度中止となったワークショップも開催されることになり、発表の機会を与えられる予定である。憲法上要求される検察官の証拠開示とその担保をテーマに、アメリカ合衆国における憲法上の証拠開示義務の形成とその実効性に向けられてきた疑念、近年の冤罪事例や世の耳目を集める事件での証拠の隠匿事例と被告人に有利な証拠の開示の担保に対する関心の高まり、及び、諸機関・諸法域の取り組みに関して簡潔な報告をする予定である。ワークショップでの発表後はそこでの議論を踏まえ、より内容を詳細なものとし、かつ分析を深めた研究論文を発表する予定である。そこでは特に新しい連邦法の成立に影響を与えたとされる州の実際の運用等について調査を行う予定である。情勢が許すようであれば、計画していたアメリカでの現地調査を行いたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の拡大のため、計画をしていた現地調査を本年度は行うことができなかったため。また同じ理由から本務校での研究費予算が向上しそれにより書籍購入や機器購入等をまかなうことができたことも理由の一部である。新型コロナウィルスの終息の程度にもよるところであるが、アメリカ合衆国における2020年の新しい連邦法の実施状況に関して現地調査を行いたいと考えている。また研究調査に必要な書籍、物品の購入も行う。
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