2018 Fiscal Year Research-status Report
臨床試験における承諾の機能と限界に関する比較刑法的検討
Project/Area Number |
18K12665
|
Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
天田 悠 中央大学, 法学部, 特別研究員 (90779670)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 刑法 / 医事法 / 臨床試験 / 同意 / 承諾 / 手続による正統化 / 手続化 / ドイツ |
Outline of Annual Research Achievements |
〔本研究の全体像〕 本研究は、臨床試験の法的正当化の判断枠組みのうち、特に、臨床試験における手続履行の刑法的意義を明らかにすることを目的とする。このような目的意識のもと、本計画では、①ドイツ医事刑法の実体的規定と手続的規定を中心に、②環境刑法や経済刑法等の隣接領域の議論からも示唆を得ながら、③被験者の承諾を取得する「プロセス」ないし「手続」に着目しつつ、臨床試験の刑法的評価を規定する。 〔平成30年度の研究内容〕 平成30年度は、上記〔本研究の全体像〕で示した全体計画のうち、①のドイツ医事刑法に関する研究、そのなかでも特に、ドイツ医薬品法(Arzneimittelgesetz;AMG)と医療機器法(Medizinproduktegesetz;MPG)の実体的・手続的規定を主な検討対象として、臨床試験の法的正当化構造の骨子を明らかにした。ドイツ法は、医薬品法と医療製品法という2つの法律を柱として、臨床試験を法的にコントロールしている。これらの法律は、被験者の承諾が実体法上有効となる要件を子細に掲げる一方、その他の医学的正当化要件に関しても詳細な手続規定を置いている。そこで平成30年度は、医薬品法と医療機器法の法律規定を手がかりとしながら、臨床試験をめぐるドイツ法の現況を明らかにし、これに解釈論的検討を加えることで、臨床試験の実体的正当化判断の枠組みとその具体的要件を提示した。 以上の研究成果の一部は、天田悠「臨床試験の法的正当化-ドイツ医薬品法・医療機器法を素材として」年報医事法学33号(2018年)11頁以下として結実している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記〔研究実績の概要〕で述べた研究のうち、ドイツ医事刑法の検討成果については、その概要を平成30年度上半期に論文として公表することができた。この点で、平成30年度の最低限の目標は達成できたと評価できる。 しかし、ドイツ法の研究を進めていくうちに、この問題を抜本的に解決するためには、より根源的な問いに取り組まなければならないということが明らかとなった。すなわち、(臨床試験の場面で)被験者ないし患者の意思確認プロセスを刑法的にどのように把握するか、という問いがこれである。たしかに、現在のわが国の学説においては、一定のプロセスないし手続に従うことが、当該行為を不可罰とする方向に働くという結論そのものについては、意見の一致がみられるように思われる。しかし、そうした手続を踏むことが、犯罪の成否に「なぜ」、そして「どこまで」影響を与えるのか、その理論的根拠は必ずしも明らかでない。そこで、このような、新たに生じた問いに取り組むために、平成30年度下半期は、関連する外国語文献の収集に研究時間の大部分を当てることとした。その結果、研究が当初の計画よりも遅延することとなった。 以上のように、平成30年度の研究については、一定の業績を挙げることができたという点で、当初の目的を最低限達成することができたと評価できる。しかしその一方で、問題の抜本的解決のために不可欠な、より根源的な問いに取り組むための準備は、計画どおりに進んでいるとはいいがたい。このような理由から、現在までの研究の進捗状況としては、「(3)やや遅れている」との評価を与えることにした。
|
Strategy for Future Research Activity |
上記〔研究実績の概要〕で述べた内容のうち、引きつづき①の研究に従事する。具体的には、ドイツ医事刑法の実体的規定と手続的規定を詳細に分析することで、ドイツの現況を正確に把握することに重点を置く。その際の研究対象は、ドイツの臓器移植法(Transplantationsgesetz;TPG)、去勢法(Kastrationsgesetz;KastrG)、民法典のいわゆる世話法(1901a条以下)等である。 近年、ドイツ刑法学では、「手続による正統化」(Legitimation durch Verfahren)ないし「手続化」(Prozeduralisierung)と呼ばれる議論が注目を集めている。刑法における「手続化」とは、特定の手続を遵守することによって、これに対応する法益侵害行為ないし法益関係的行為を不可罰とすることをいう。この種の議論は、臨床試験以外の、臓器移植、去勢、終末期医療における治療中止等の問題領域にも妥当しうるといわれているが、そのことの正確な含意と適用範囲は必ずしも明らかにされていない。こうした「手続化」という議論に対してどのような評価を下すにせよ、まずは、ドイツでの議論を正確にフォローする必要がある。そこで本年度は、ドイツ刑法の「手続化」をめぐる議論を整理・検討することで、わが国への受容可能性を探るための素地を整えることを目的とする(そのための予備的作業の一環として、天田悠「〔外国文献紹介〕フランク・ザリガー『(刑)法における手続化』」早稲田法学94巻2号(2019年)247頁以下をすでに公表している)。 以上の研究を行うため、ドイツの研究機関に短期滞在し、さまざまな調査・研究を行う予定である。
|
Causes of Carryover |
〔次年度使用額が生じた理由〕 平成30年度の助成金のうち、ドイツ出張に想定していた分についての支出がなかったため。 〔次年度使用額の使用計画〕 平成31年/令和元年度は、ドイツ刑法に関する文献収集をさらに進めるために設備備品費を支出する。加えて、こうした研究による成果を研究会(この報告書作成時点の予定では、早稲田大学等)で報告するために、国内旅費を支出する。
|