2019 Fiscal Year Research-status Report
臨床試験における承諾の機能と限界に関する比較刑法的検討
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18K12665
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
天田 悠 香川大学, 法学部, 准教授 (90779670)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 刑法 / 医事法 / 臨床試験 / 同意 / 承諾 / 手続による正統化 / 手続化 / ドイツ |
Outline of Annual Research Achievements |
〔本研究の全体像〕 本研究は、臨床試験の法的正当化の判断枠組みのうち、特に、臨床試験における手続履行の刑法的意義を明らかにすることを目的とする。このような目的意識のもとに、本研究は、①ドイツ医事刑法の実体的規定と手続的規定を中心に、②環境刑法・経済刑法等の隣接領域の知見からも示唆を得ながら、③被験者の承諾を取得する「プロセス」ないし「手続」に着目しつつ、臨床試験の刑法的評価を規定する、という計画を立てた。 〔平成31年度/令和元年度の研究内容〕 平成31年度/令和元年度は、上記〔本研究の全体像〕で示した全体計画のうち、①ドイツ医事刑法の実体的・手続的規定に横断的検討を加えることで、行為者が一定の「手続」ないし「プロセス」を踏むことの刑法的意義を明らかにした。近時、ドイツ(およびこれと隣接するスイス)の刑法学説は、「手続化」(Prozeduralisierung)をキーワードとして、正当化判断において手続履行が果たす意義をさかんに議論している。このような「手続化」論の射程はきわめて広く、それは、治療の中止・差控え、臓器移植、着床前診断、そして本研究が直接の対象とする臨床試験にまで及ぶ。そこで、平成31年度/令和元年度は、手続化論をめぐるドイツ法の全体像をまず明らかにし、次いでこれに批判的検討を加えることによって、次年度以降、臨床試験の正当化判断枠組みを考察するための準備を整えることにした。 なお、以上の研究成果の一部は、天田悠「刑法における『手続化』論の基礎的考察(1)―ドイツにおける諸学説の批判的検討を手がかりとして―」香川法学39巻3・4号(2020年)39頁以下(以降、順次掲載予定)、ヘニング・ローゼナウ(天田悠=甲斐克則訳)「講演:人を対象とする研究の法的要件」甲斐克則責任編集『医事法研究【創刊第1号】』(信山社・2019年)65頁以下等に結実している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記〔研究実績の概要〕で述べた研究計画のうち、ドイツ刑法については、その検討成果の一部を、所属大学紀要『香川法学』で論説として公表することができた。この点で、平成31年度/令和元年度の最低限の目標は達成できたと評価できる。しかし、この検討成果は、ドイツにおける議論の全体像と問題点を、いわば総論的に明らかにしたものにすぎない。その反面、今年度は、「臨床試験において、被験者(ないし患者)の意思確認プロセスを刑法的にどのように把握するか」という各論的課題の検討には、十分にリソースを割くことができなかった。このような理由から、現在までの研究の進捗状況としては、「(3)やや遅れている」との評価を与えることにした。 もっとも、このような評価は、平成30年度の研究の「遅れ」を引きずっていることに由来するものであり、残りの2年度の研究をつうじて、こうした遅れは十分に挽回可能であると考えている。したがって、「(3)やや遅れている」との評価が2年続いてはいるものの、本研究課題の遂行上、特段大きな支障はない。
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Strategy for Future Research Activity |
上記〔研究実績の概要〕〔本研究の全体像〕で述べた内容のうち、引きつづき、①の研究に従事する。とりわけ、所属大学紀要『香川法学』における連載の完結を目指す。 また、②の研究に本格的に着手するための準備を整える。具体的には、ドイツ経済刑法の教科書やコンメンタールを収集、精読することに軸足を置く。 さらに、③被験者の承諾につき、引きつづき文献の収集を進める。このうち、研究遂行上有益な外国文献については、翻訳や紹介を執筆することも検討している(本年度の取組みとして、キム・フィリップ・リノー(仲道祐樹=天田悠訳)「医事法における推定的承諾―慣習法上認められた自己決定という幻想か?―」比較法学53巻1号(2019年)167頁以下等)。 なお、当初の研究計画では、ドイツまたはスイスの研究機関に短期滞在し、様々な調査・研究を行う予定であった。しかし、新型コロナウイルス肺炎の世界的流行に伴い、今年度中の海外渡航は、きわめて困難な状況にある。そこで令和2年度は、海外出張をすることは差し控え、その分余剰した研究費を書籍の購入費に充てることにする。
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Causes of Carryover |
〔次年度使用額が生じた理由〕 平成31年/令和元年度の助成金のうち、ドイツ出張を予定していた分の支出がなかったため。 〔次年度使用額の使用計画〕 令和2年度は、ドイツ刑法関係の文献をさらに収集するために、設備備品費を支出する。加えて、こうした研究による成果を研究会(早稲田大学刑事法学研究会、瀬戸内刑事法研究会、医療と司法の架橋(BMJ)研究会等)で報告するために、国内旅費を支出する。
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