2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K12666
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
芥川 正洋 早稲田大学, 法学学術院, 講師(任期付) (40639316)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 強盗 / 窃盗 / 占有 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の研究課題は、強盗罪の処罰根拠を明らかにすることである。本年度は、その予備的な研究作業として、強盗罪の不法の一部をなす「占有侵害」を明らかにするため、占有概念についての研究を進めた。この成果は、芥川正洋「窃盗罪における占有」早稲田法学会誌69巻2号1頁以下に公刊した。 従来の学説では、占有は「物に対する事実的支配」(事実的占有概念)として理解されてきた。これのような考え方と、ドイツで有力に主張されている、物が所在する領域の規範的なアクセス規制の有無により占有の存否を判断する考え方(社会的・規範的占有概念)とを統合し、「他者の物利用の排除可能性」の存否を基準として、占有の有無を判断するべきことを明らかにした。占有の実体的利益とは、他者が物の利用を制限されていることから反射的に生じる、占有者自身の物の利用可能性であるからである。 占有の判断は、他者による物利用がどのように排除されているかにより、概ね5つの類型に分けることができることを明らかにした。(1)物理的に排除可能性が確保されている場合、(2)規範的に他者による物へのアクセスが制限されている場合、(3)占有者自身の実力により排除可能性が確保されている場合、(4)占有者の物所在地への回帰可能性により排除可能性が保たれている場合、(5)占有者以外の一般人により排除可能性が担保されている場合、である。従来、占有の存否(窃盗罪の成否)が争われてきた事案を、このような観点から分析するとき、各類型に応じて重要視される事実(間接事実)が異なる。たとえば、(4)では、占有者自身が物の所在場所を知っていることが必要であるから、強い「占有の意思」が必要である。これに対し、(5)では、一般人が(概括的にせよ)当該財物を占有者が利用しているということを容易に認識できる場合でなければ占有を肯定できないから、原則として、占有の外観が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
刑法上の占有概念を明らかにする作業は、研究課題との関係では、予備的作業と位置づけていたが、占有概念を研究する過程で、本年度の研究により明らかにされた占有の本質が、強盗罪の処罰根拠である、自由侵害性と深く結び付くことが明らかになり、予備的作業に留まらない成果を得られた。 ただし一方で、予備的作業であるにもかかわらず、研究の過程で、従来の学説の整理に留まらない解釈論的成果が生じる可能性に気付いたので、本格的な検討作業に着手し、成果を生み出すために時間と労力を費やしたため、計画よりも若干の遅延が生じた。 以上、総合すれば、概ね順調といってよいと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
計画通りに研究を進捗させ、事後強盗罪の研究に取りかかる。ここでまず問われることは、窃盗犯人が暴行・脅迫を行った場合に、なぜ強盗と同じ評価を加えられるのか(事後強盗罪の処罰根拠)ということである。すでに強盗罪については、その重い処罰の根拠について明らかにしている(芥川正洋「強盗罪の自由侵害犯的構成について(1)・(2・完)」早稲田法学会誌67巻2号、68巻1号)ので、この成果を前提とし、事後強盗罪の処罰根拠も、強盗罪の処罰根拠と同じであるか、相違するのか、相違するとすればどのように相違するのかという観点から、研究に着手する予定である。 さらに、事後強盗罪は、「窃盗が」と規定し、窃盗犯人のみが、犯罪の主体となる。およそ財産犯ではなく、窃盗犯人に犯罪主体を限定したということから、立法者は、事後強盗罪を「占有者の意思に反した占有侵害」と結びつけたことが看取される。この点、窃盗罪の占有の意義を明らかにした、本年度(2018年度)の研究成果が、十分に生かされるものである。これまでの研究成果を前提としつつ、さらなる研究の進捗は、十分に期待できると考えている。
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Causes of Carryover |
本年度は、研究会を開催するため、旅費を計上していたが、研究過程で文献渉猟・文献研究の必要が予想以上に生じ、研究会開催を断念したため。
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