2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K12666
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
芥川 正洋 早稲田大学, 法学学術院, その他(招聘研究員) (40639316)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 事後強盗 / 占有 / 自由に対する罪 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、強盗罪の解釈枠組みを①人身危険犯モデルと②自由侵害犯モデルに整理し、それぞれを検討することを通じて、強盗罪の解釈論を展開しようとするものである。すでに、理論モデルによる整理を終え、強盗罪については②自由侵害犯モデルによる解釈が適切であることを示した。研究の過程で、②自由侵害犯モデルの試金石は、事後強盗罪の解釈にあることが明らかになったので、2019年度は事後強盗罪について研究を行った。 具体的成果は、「事後強盗罪の処罰根拠と成立範囲」早稲田法学95巻1号(2019年)において公表した。強盗は、財物を奪うために暴行・脅迫を行うのに対し、事後強盗は、窃盗犯人が奪った財物を守るために暴行・脅迫を行う。前者は、いわば積極的な侵害態様であるのに対し、後者は、いわば消極的な(受け身的な)侵害態様である。それゆえ、かねてより、事後強盗行為については、その処罰価値が、普通の強盗に比して低いとの指摘がある。同論文は、にもかかわらず、事後強盗行為が「強盗として論ずる」と規定されている(刑法238条)ことに着目し、なぜ強盗と同様の処罰が予定されているかを事後強盗罪の処罰根拠として分析したものである。学説においては、窃盗犯人と被害者等の衝突状況に注目する見解が有力とされている。このような理解は、①人身危険犯モデルに基づくものである。これに対し、同論文では、ドイツ民法典に規定されている占有自救権から着想を得て、被害者側の盗品取返し権に着目し、盗品を取り返そうとする被害者に対して、暴行・脅迫を行うことにより、この取り返しを断念させることに事後強盗罪の処罰根拠を見出した。 このように盗品取返し権に着目する場合、事後強盗行為は、被害者の意思に働きかけ、取り返しを断念させる犯罪と理解することができ、②自由侵害犯モデルに基づく解釈が可能となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
期間途中に研究環境が悪化したため、研究進展の重大な支障が生じた。一方で、事後強盗研究に当たっては、処罰根拠から分析を進める手法が、予想外の成果を生じ、研究の進展を大きく支えた。 当該期間では、事後強盗罪と自由侵害犯モデルの整合性を検証することが目的であったが、この問題を分析を通じて、副次的成果が生じた。事後強盗罪の成立には①窃盗の機会に暴行・脅迫がなされる必要があるが、その判断基準がおおむね明らかになった。さらに②事後強盗罪の成立に必要とされる暴行・脅迫の程度についても、おおむね解明することができた。これらの成果は、研究計画では予定していなかったものであったが、結果として、自由侵害犯モデル(研究実績の概要参照)を支持する論拠となりうるものであった。 ②暴行・脅迫の程度については、自由侵害犯モデルからは、普通の強盗罪について人的相対化の余地が開かれることをすでに明らかにしたが、事後強盗罪についても、同様に人的相対化の余地があることが当該期間の研究で明らかとなった。判例では暴行・脅迫の相手方の属性(年齢、性別、職業、体格)により事後強盗罪の暴行・脅迫該当性の判断が大きく左右されているが、このような判例の立場は、①人身危険犯モデルからは説明が困難であると考えられるが、②自由侵害犯もであるからは理論的に基礎づけることが可能である。それゆえ、事後強盗罪についても、②自由侵害犯モデルに基づいた解釈が可能であり、かつ、妥当であることが強く示唆される。この成果は、処罰根拠モデル論による犯罪成否の検討の有効性を示すものであり、研究の進捗に大きく貢献した。 以上を総合すると、研究の進捗は、やや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の進展のために研究会や海外渡航を予定しているが、新型コロナウイルスの影響により、これらの実施については、見通しがつかない。そのため、これらの実施ができなくても研究の進捗に支障がいないように研究計画を組み立て直す必要がある。もっとも、本研究は文献渉猟が主たる研究手法であるから、研究推進に本質的な支障は生じない見込みである。 具体的な研究成果としては、2020年度中に②自由侵害犯モデルから、強盗罪のみならす強盗関連犯罪についての解釈論を示す論文を執筆する。このことにより、自由侵害犯もでアルによる強盗罪・事後強盗罪等の解釈が適切な帰結を示しうることを明らかにし、帰納的に自由侵害犯モデルの合理性を示すことになることを見込んでいる。 上述した(「現在までの進捗状況」)ように、2019年度中に事後強盗罪の各論的研究をほぼ終えている。②自由侵害犯モデルによる解釈の展開においては、事後強盗罪の研究が最大の課題であるから、本研究課題についての研究の展開は、いわば峠を越えたといってよいと考えている。それゆえ、概ね計画通りに研究の展開を進めていくことにする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、次の2点である。①関連する研究課題について、別途、早稲田大学から研究助成を得て、この研究助成を利用して本研究課題についても研究の推進できたため、支出を抑えることができた。②2019年度の後半は、研究環境が著しく悪化したため、研究推進に遅れが生じたため、予定よりも支出が下回った。 2020年度の支出計画については、①2019年度に受けた早稲田大学の研究助成は、単年度のものであり、2020年度には助成が得られなかったこと、②2020年度中に新たに所属研究機関が変わり、研究環境が改善したことから、2019年度よりも研究計画の進捗が見込まれることから、2019年度に支出しなかった事項について、2020年度中での使用を予定している。
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