2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K12666
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
芥川 正洋 福岡大学, 法学部, 講師 (40639316)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 強盗殺人罪 / 強盗致死傷罪 / 自由に対する罪 / 結果的加重犯 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、強盗罪及び関連する犯罪類型について、統一的視点から解釈を行うものである。2021年度は2020年度より継続して強盗殺人罪・強盗致死傷罪の研究に注力した。その成果を「強盗殺人罪・強盗致死傷罪の原因行為の範囲について-『強盗の危険』の内実をめぐって-」『高橋則夫先生古稀祝賀論文集[下巻]』(成文堂、2022年)に公表した。本研究課題のこれまでの研究の成果として、強盗罪・事後強盗罪等を自由に対する罪として把握するべきことを明らかにしたが、強盗殺人罪・強盗致死傷罪の解釈においても、基本犯となる強盗罪・事後強盗罪等をこのように理解することが適切であることが明らかになった。 強盗殺人罪等は、強盗犯人や事後強盗犯人が被害者に致傷・致死の結果を生じさせた場合に成立するが、その成立範囲については争いがある。強盗殺人罪・強盗致死罪は、死刑又は無期懲役と非常に峻厳な刑罰が規定されている(刑法240条)。このような厳罰をもって抑止するべき必要性は、基本犯となる強盗罪・事後強盗罪が、被害者の自由を侵害するとの犯罪としての性格を有するがゆえに、①被害者側からの強い反発が生じることがありえ、行為者がこの反発に臨時に対応するためとっさに過剰な行為に及んだり、または、行為者がこの反発を予期して過剰な行為に及んだりする可能性が高く、この結果として、致傷・致死の結果が生じがちであること、さらに、②強盗等の犯行の結果として、被害者側が抵抗能力を喪失するがゆえに、犯人側がさらなる過剰な行為に及びがちであることに求められる。それゆえ、①又は②のような過剰行為に及びがちな危険性が肯定される範囲で、強盗殺人罪等の成立を認めるべきである。 さらにこの研究成果を発展させて、刑法学会九州部会129回例会で「強盗殺人罪における『強盗の機会』について」と題して、研究報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では、2021年度までに、強盗致死傷罪についての研究を完結させ、本研究課題を終了する予定であった。①所属研究機関を異動したことによる研究の立ち上げに想定以上に時間がかかったこと、②研究過程において、想定以上の調査研究の必要が生じたことから研究に遅れが生じた。②については、2021年度の研究において、ドイツ刑法の議論を参考とするにあたり、ドイツ刑法の改正経緯を1950年代まで遡り件とする必要に直面したことが、主因である。 また、上述のように、2021年度に刑法学会九州部会例会で研究成果の報告を行ったが、その報告後の質疑により、これまでの研究とは異なるアプローチの可能性が指摘され、③新たな観点からの研究の必要が生じた。 ①~③の事情から研究の進捗に遅れが生じたが、「研究実績の概要」に示したように、本研究課題について相当程度の進展も見られたので、総じて「やや遅れている」と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度までの研究では、強盗殺人罪を理論的観点から研究することに注力していた。これまでで理論的研究については7~8割程度の進捗があったものと考えているので、2022年度では、まず、①理論的研究をさらに進捗させ、強盗殺人罪の解釈の理論的基礎を確実なものとする。さらに、②実践的研究として、裁判例の収集・分析を通じて、これまでの研究成果が、裁判実務においてどのような事案解決の指針を示すのかについても明らかにする。
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Causes of Carryover |
コロナウィルス感染症の発生と流行のため、研究計画を大幅に改め、移動を伴わない研究方法を採ることして、旅費については支出をしなかった。また、2021年度の研究は、2020年度の研究対象をさらに深化させるものであり、2020年度中に必要な物品(主に図書資料)の収集は終えており、これを活用することができた。また、研究の進捗がやや遅れているため、2021年度中に研究対象としようとしたテーマについて、研究に着手できなかったため、当初予定より、支出が寡少となった。
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