2018 Fiscal Year Research-status Report
人工延命措置の差控え・中止をめぐる三種類の意思表示とこれに応じた制度構築
Project/Area Number |
18K12668
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Research Institution | Japan Coast Guard Academy (Center for Research in International Marine Policy) |
Principal Investigator |
新谷 一朗 海上保安大学校(国際海洋政策研究センター), 国際海洋政策研究センター, 准教授 (40532677)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 尊厳死 / 終末期医療 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,人工延命措置を拒否するに際しては,①信頼に値する代行者の選任,②文書の作成とそれを具体的に解釈する者の選任,③将来の病状を医師と話し合ったうえでの文書の作成,という三種類の意思表示が考えられるところ,これらをどのように制度構築すべきかを,対象としている。初年度にあたる平成30年度は,これら三種類の意思表示を刑法理論上どのように位置づけるのかについて検討するために,ドイツ世話法における「患者の事前指示」とドイツ刑法上の(推定的)承諾論との関係の検討を行い,2009年の改正によって法的拘束力が与えられた「患者の事前指示」が,刑法上どのような理論的根拠を有するものなのかを明らかにすることを目的としていた。 具体的には,まず,ドイツにおける最新の(推定的)承諾論に関する文献を収集し,これをもとに分析視座を構築したうえで,「患者の事前指示」の刑法上の位置づけに関する議論を分析することを目的としていた。ここで,終末期医療においても通常の刑法上の承諾の延長線上に存在する形での事前の意思が要求されるのか,あるいは終末期医療においては,通常の承諾よりも緩和された形での意思表示で足るのかが問題となるが,世話法における「推定的意思」の判断方法について第1901a条の第2項は,「推定的意思は,具体的な根拠に基づいて確定しなければならない。特に被世話人の過去における口頭又は書面による意見の表明,倫理的又は宗教的信念及びその他の個人的価値観を考慮に入れなければならない」と規定している。推定的承諾についての一般的な理解としては,関与者の実質的利益における行為,とされているところ,世話法における推定的意思もまた,この意味での推定的承諾に包摂されるものと理解されている,という知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
人工延命措置を拒否するに際しての意思表示のうち,①信頼に値する代行者の選任,②文書の作成とそれを具体的に解釈する者の選任については,それを推定的承諾の範囲内で議論すべきと結論づけたが,③将来の病状を医師と話し合ったうえでの文書の作成,というアメリカにおけるPOLSTのような意思表示については,分析が遅れ,業績として公表できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度は,8月に世界医事法学会が予定されていることから,これまでの研究において,とりわけドイツ刑法を中心として検討を加えた,終末期医療における意思決定という側面における論点について,研究報告を行うこととする。そしてこの報告をふまえて,当初予定していたアメリカの各州の法制度をすべて参照することによって,医療者の手続的保護というもう1つの側面にも焦点を当てることとする。
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Causes of Carryover |
参加を予定していた研究会に,事情により一度参加できなかったため,当該研究費が生じた。本年度の研究においても,必要となる文献の多くは,現在所属する大学に存在しないものが多いため,本年度請求する研究費とあわせて,ドイツ語法律データベースに12万程度,25万円程度を図書の購入費に充てる。また,助言を得るおよび報告をする予定の研究会および学会が東京開催されるため,旅費を概算し10万円程度をこれに充てる。
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