2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K12669
|
Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
木戸 茜 富山大学, 経済学部, 講師 (30803043)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 契約栽培 / 契約農産 / 契約法 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、農産物の生産者と食品メーカー等とが直接に生産販売契約を締結する「契約栽培(Contract Farming)」が、国内外で注目を集めている。契約栽培においては、あらかじめ品目・品質・数量・価格等の条件を決めて取引を行うため、双方が目的物ないし供給先を安定して確保できるというメリットがある。一方で、生産者は相手方のニーズに合わせて設備投資する等して生産を行うため、後から受注量を減らされたり価格を下げるよう求められたりした場合にこれに従わざるを得ない立場に陥ることがある。 こうした契約当事者間の不均衡の問題を是正するため、国際的契約栽培に関して、国際機関による法的文書の公表が相次いでいる。例えば、私法統一国際協会(UNIDROIT)による「契約栽培に関するリーガルガイド(2015年)」や、国連食糧農業機関(FAO)による「契約農産のための有効な規制枠組みに関する立法研究(2018年)」などである。 本研究課題の最終的な目的は、契約栽培を素材として、当事者間の不均衡を是正し、さらには取引の経済効率性を高めることのできる契約法規範のあり方を模索することにある。目的を到達するため、本年度はまず、(i)法学的側面からの契約栽培の定義の明確化、及び(ii)契約栽培に関する国内外の法的文書及び具体的事案の分析を行った。これらの作業を通じて、これまで法学上の議論の蓄積のなかった契約栽培の問題点を明確にするとともに、具体的事案からの契約法規範の抽出を試みた。本年度の研究により得た知見をもとに、来年度は(iii)より一般化された仮説的契約理論モデルの構築のための作業を行う予定である。 なお、本年度の研究成果を取りまとめ、「国際的契約農産の取引類型と法的課題」と題して、国際商取引学会西部部会(2019年4月20日於富山大学)において学会報告を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、(i)法学的側面からの契約栽培の定義の明確化、及び(ii)契約栽培に関する国内外の法的文書及び具体的事案の分析を行うことを予定しており、おおむね計画通りに研究を進めることができた。 (i)について、契約栽培については法学上の議論の蓄積がほとんどないため、法学的側面からみて契約栽培がいかなる特徴を備えた契約類型であるかを確認する必要があった。特に、国際的契約栽培において想定される取引類型と、日本国内において契約栽培として認識されている取引類型との異同が明確になった点は大きな収穫であった。この作業により、契約栽培の問題点をより明確にすることができ、類似する他の契約類型に関する議論を参照することで、その問題点に対応し得る契約理論の検討が可能となった。 さらに、(ii)契約栽培に関する国内外の法的文書及び具体的事案を収集し、検討を行った。契約責任の帰責根拠は、合意違反のみならず、契約当事者の関係や不履行の経緯等多様な事情を反映したものである場合が多く、その責任判断構造は具体的事案の実質的検討の積み重ねから論じられるべきであると考えられる。そこで、国内における契約栽培に関する4件の裁判例、及び農林水産省が公表している契約栽培についてのモデル契約の分析を行った。国際的契約栽培に関しては、裁判例ないし仲裁例を見つけることができなかったため、国際機関による法的文書を素材とし、いかなる取引形態や紛争類型が想定されているか検討した。その結果、ここでも、両者の想定する取引形態が異なること、従って、起こりうる紛争や適用されるべき契約ルールに違いがあることが明らかになった。 以上のように、特に国際的契約栽培については具体的事案の研究を行うことができなかったものの、その他の点については当初の計画通り順調に研究を進めることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、今日国際的に注目が高まりつつある契約栽培を素材として、契約正義と経済効率性という2つの視角から、より適正な契約法規範のあり方を提示しようとするものである。来年度は、本研究の最終目的である、一般化された仮説的契約理論モデルの構築を試みる。 より具体的には、生産者が履行に先立って先行投資を行うことが多いため、食品メーカー等が機会主義的行動をとりやすいという契約栽培の事案的特徴に配慮しながら、国際的にも妥当する契約責任の決定法理を抽出する。これにより契約栽培における妥当な契約法規範を明確にし、より多角的な視点から検証するため、類似するその他の契約類型における契約法規範と照らし合わせ、事案の性質や実際の紛争処理のあり方について比較検討する。これにより、さらに一般に妥当し得る契約法理モデルの提示を試みる。 また、論点の見落としや先行研究に関する誤った理解、具体的事案についての偏向的な解釈を避けるため、複数のレビューを得る機会を設ける。国内外の研究協力者の意見を仰ぐとともに、関連する学会・研究会に積極的に参加して意見交換を行う。これらにより、本研究課題の成果をより精緻なものとするための貴重なレビューを得ることができると考える。 これらの作業を通じ、契約栽培における契約法規範のあり方について一定の試論を得、さらにその一般化が可能であるか否か検討する。以上の研究を論文としてまとめ、研究成果は国際商取引学会年報を通して公表する予定である。
|
Causes of Carryover |
2019年1月発行予定の書籍Food and Agriculture Organization『Enabling Regulatory Frameworks for Contract Farming』を購入する計画であったが、同書が発行中止となったため購入することができなかった。そのため助成金4,550円が本年度未使用となり、この分は次年度発行される別の関連書籍を購入するために使用する予定である。
|
Research Products
(1 results)