2018 Fiscal Year Research-status Report
Research for relation between resort and belonging of coownership
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18K12676
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
吉原 知志 香川大学, 法学部, 准教授 (70805308)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 共有 / 団体 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、所属する日本ローマ法研究会での研究報告で得られた知見を手がかりに、日本の共有法の学説を整理し、法史学など基礎研究との接続を図る作業に従事した。学説の整理に取り組んだ結果、次の議論の推移を明らかにした。戦前から戦後にかけての日本の共有学説はローマ法とゲルマン法を対比させる法史学上の認識を基礎として、民法の共有規定を過度に分割を奨励する個人主義的な規律と捉えた。現在では、分割を前提とする共有は必ずしも典型とはされず、「分割を前提としない共有」の類型も民法上の共有とする見方へと推移している。その結果、「分割を前提としない共有」の類型を正面に据えた法史学的認識が必要であり、とりわけ伝統的見解が基礎に据えていたローマ法の見方を変える必要がある。以上の整理は成果として一部を香川法学に公表しており、引き続いてローマ法学の展開を追う作業に従事している。ヨーロッパのローマ法学の議論は、すでに20世紀前半から「分割を前提としない共有」に相当するようなローマ法上の共有の存在に関心を寄せている。とりわけsocietas re contractaと呼ばれる共有物に着目した組合関係をめぐる議論は本研究との関係が窺われるが、日本で紹介し検討する研究は少なく、本研究の中で明らかにしていきたい。 さらに、本年度は2020年度施行予定の民法改正をキャッチアップするための調査にも取り組んだ。本研究の目的とする共有法上の実体法と訴訟法の交錯関係の解明のためには、前提として共有紛争に関連する実体法上の規定の理解を整理しておく必要がある。とりわけ多数当事者の債権債務関係は本研究と強く関連するが、今回の改正で規定が大きく変わっている。さらに、弁済による代位制度なども含めて総合的に多数当事者の法律関係を整理しておく必要がある。この調査による成果の一部は香川法学で公表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は共有法上の実体的権利と訴訟法上の効果の関係を明らかにすることを目的にするが、特定の紛争類型のみが対象となる射程の狭い研究としないために、基礎研究や関連規律にも調査を広げて本研究が法学全体においてもつ意義を可能な限り明らかにすることをも目指している。共有法はゲルマン法上の総有や日本の入会権がかつて社会経済的に重要な意味をもっていたように、多くの分野と隣接し歴史や思想の調査も必要とする領域である。現代の日本法で望ましい共有法のあり方を探る上では、通時的・共時的に掘り下げた検討が欠かせない。 そのような本研究の方向性からは、本課題初年度にあたる平成30年度は、①共有の法史学的認識を本課題の問題意識に合わせて掘り下げて検討し、②多数当事者の債権債務関係を含む関連法規の改正調査を行ったことで、順調なスタートを切ることができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、予定通り共有法の比較法調査に着手する。平成30年度より本務校となった香川大学はBeck-Onlineを導入しており、ドイツ法の裁判例・文献の調査効率の向上が期待できる。課題申請時点より手がかりとして挙げていたBGH判決を元にドイツの判例状況の調査を行う予定である。 同時に、平成30年度の調査の続行、及び公表作業を行う。特に「分割を前提としない共有」類型を起点とするローマ法学の調査はドイツ、イタリアを始めとするヨーロッパ各国のローマ法学者の見解を追うことになるが、これまで日本での紹介が乏しいことから日本の議論に新しい示唆をもたらす成果が期待できる。また、改正民法を踏まえ、共有に関わる債権法規定の意義の解明も含めた、共有法の全体的な検討にも積極的に取り組んでいきたい。
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Causes of Carryover |
注文書籍が予算執行期中に発刊が間に合わずキャンセルを出した。これにより残額が生じた。残額はキャンセルした書籍の再購入に充てる。
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Research Products
(1 results)