2019 Fiscal Year Research-status Report
Study for the Time Scope of Bankruptcy Estate
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18K12682
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
浅野 雄太 九州大学, 法学研究院, 准教授 (40768131)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 破産法 / アメリカ連邦倒産法 / 固定主義 / 膨張主義 / 自由財産 / 破産財団 / 立法史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、①明治時代から大正時代までの破産法の立法史、および、②特にアメリカ連邦倒産法を中心とした規定及び議論を踏まえたうえで、日本における固定主義の意義について検討することを目的としている。現在、比較法的には固定主義ではなく膨張主義が有力であり(例:ドイツは固定主義から膨張主義に改められた。その他、フランス、中国なども膨張主義である)、また固定主義をとるアメリカでも、相続財産等について例外規定が数点設けられている。これと対比すると日本は個別具体的な規定なしに固定主義が定められており(破34条1項)、比較法的にみて日本では破産財団の時的範囲については十分な研究がされていないといえる。 そのうえで今年度は、前年度から引き続き現行法に至るまでの膨張主義から固定主義への変遷について研究を行った。具体的には、大正11年の旧破産法(日本においてはじめて固定主義が規定された)の立法の中心となった加藤正治先生においても固定主義と膨張主義いずれを是とするかの揺らぎがあり、これを含めて破産財団の時的範囲については1900年から1920年までの間を中心とした議論が多数交わされていることが明らかとなった。そしてその議論の中心となったのは相続財産および破産者による新規事業の立上げの際の貸付けであり、固定主義の意義として労働者の労働意欲の維持を中心として論じられることが多い現在の議論とは前提が異なっているのではないかということを突き止め、以上を論文の形で執筆した(ただしその公表については「現在までの進捗状況」記載の通り遅延している)。 また、上記②アメリカ連邦倒産法についても、特に相続財産については破産手続開始後の相続財産の一部が破産財団に組み込まれるなど特殊な扱いがされており、その立法趣旨について同国の注釈書その他論文を踏まえた検討を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請者は、現在までに、①日本において膨張主義が固定主義に変更されるまでの過程を通じて、現行法下での固定主義の意義を研究するとともに、②米国の連邦倒産法における固定主義の意義ないし運用について研究を行ってきた。 現在に至るまで、①についてはおおよそ研究を終え、明治期の破産法と、大正11年破産法の対比、ないしその間に交わされた学説議論を参照した結果、日本においては、特に相続財産および債務者破産後の新規貸付けを念頭に置いて固定主義が立法されたものと考えられる、との結論を得た。そのうえで、現在固定主義の意義については破産者の労働債権の保護を念頭に置いて議論がされることが多いが、以上の立法史および現行法(特に免責制度)を踏まえたうえで検討すると、上記のような労働債権の保護を重視する見解に対して疑問を呈することができると考える。 以上を踏まえたうえで、②についても、特に破産手続開始後の労働債権および破産手続開始後に債務者が相続した相続財産についての各論的検討を通じて同国の固定主義の意義を検討することを予定しており、現在までに特に相続財産の扱いの部分に関してはCollier on Bankruptcy等の注釈書その他論文の読解を開始し、相続財産については固定主義の例外となる規定が設けられており、その背景には、労働債権と異なり相続財産は債務者の経済的努力に関連しないという問題意識があり、それは日本の議論と一部共通することを見出している。 もっとも、①については、4月までには論文の形で九州大学の紀要(法制研究)に掲載することを予定していたが、コロナウイルスの影響で自己の研究成果をテーマとした研究会の開催が遅れ、それに伴い論文の掲載も遅れているため、上記区分とした次第である。
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Strategy for Future Research Activity |
まず2020年度は、現在執筆中の、日本における立法史を踏まえたうえでの固定主義の意義についての論文を完成させ、遅くとも6月中には法政研究への提出を目指している(可能であれば、その前に研究会で自己の研究成果を発表したいとも考えている)。 そのうえで、論文提出以降は、本格的にアメリカ連邦倒産法の研究にシフトする。現在は特にアメリカ法における相続財産の扱いについて研究しており、その立法趣旨および現在の運用、学説での議論についても論文にまとめ、2021年度の早期を目途に論文の形で提出することを目指している。 それと並行して、アメリカの労働債権(退職金債権含む)についても研究することを予定している。特に退職金債権については、連邦最高裁の判例上、少なくとも一部は破産財団には組み込まない旨判示されており、学説もこれを受けて多数の議論が展開されている。日本では基本的に退職金債権は破産財団に組み込まれることから、アメリカの退職金制度の内容も踏まえたうえで、なぜ連邦最高裁が上記のような結論に至ったか、またそれに対する学説の反応を検討する。そのうえで、アメリカの考え方を日本に導入することができるか、またより一般的に、破産者に対していかなる財産を残すべきかについて、比較法を踏まえた研究を行う。
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Causes of Carryover |
物品(文具等)の購入で端数が生じたため、次年度請求分の物品費に含めて使用したい。
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