2020 Fiscal Year Research-status Report
Study for the Time Scope of Bankruptcy Estate
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18K12682
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
浅野 雄太 九州大学, 法学研究院, 准教授 (40768131)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 破産 / 倒産 / アメリカ法 / 立法史 / 固定主義 / 破産財団 / プロシーズ / 退職年金 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度の前半は、前年度より引き続き、日本の破産法において固定主義がいかにして発展したかを、主に大正期の立法資料その他同時代の体系書を講読することで調査を行い、論文として執筆を行った。その調査結果は、「固定主義の歴史的意義」(法政研究87巻2号1頁)として公表するに至っている。 同論文において申請者は、明治23年に公布され、膨張主義を採用する商法破産編から、大正11年に公布され、固定主義を採用する旧破産法、そして両者の間に位置づけられる条文をそれぞれを対比した。その結果、現行の固定主義は特に改正草案との対比の中で成立したものであること、すなわち、改正草案では膨張主義がとられつつも労働者の破産後の賃金は財団から除外されるという、いわば「修正された膨張主義」がとられたのではないかということを明らかにした。そしてこれと対比される形で成立した固定主義は、立法資料によれば、特に、破産手続開始前から存在していた債権者と手続開始後に出現した債権者とのバランスをとることが重要な意義とされ、他方、労働者保護という観点は、すでに破産法案において賃金が除外されていたこともあり、あまり大きな争点にならなかったということを示した。そのうえで、固定主義のメリットとして労働者保護を重視する近時の見解については再考すべき部分もあるのではないかと論じた。 令和2年度の後半では、アメリカ連邦倒産法における破産財団の範囲についての検討を行った。具体的には、1.同法552条が定める、財団財産処分時の代価(プロシーズ)の取扱い、2.労働者破産時の退職年金の取扱いに関する参考文献の収集を行った。特に2については、1990年代以降重要な判例が相次いで出されており、関連判例含めての調査も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度は、前年度末より引き続きコロナウイルスの影響下にあり、本来であれば前掲「固定主義の歴史的意義」は令和2年2月の研究会での報告を踏まえたうえで法政研究に掲載することを予定していたところ、研究会が中止となり、代替日程のめども立たなかった。そのため、やむを得ず当初の予定よりも遅れての掲載に至り、これに合わせて校正作業等のスケジュールも遅延した。 立法史についての研究の遅れ、および、他大学訪問による文献収集もやはりコロナウイルスの影響で大幅に制限されたことから、本来であれば令和2年度の早期からアメリカ連邦倒産法についての検討を行うことを予定していたところ、本格的な研究は数か月後にずれ込むこととなった。 また、アメリカ連邦倒産法下での代価および退職年金の取扱いについては、現地の判例・学説とも、申請者が当初想定していたよりも多数存在していることが判明し、講読に時間を要したことも研究がやや遅延した理由となる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度の研究方針としては、前年度より引き続き、アメリカ連邦倒産法下におけるプロシーズの取扱いを研究することで、同法が定める破産財団の範囲についての研究を行う。 プロシーズの扱いについては、主に、2018年にテキサスローレビューで公表された、Melissa B.Jacoby & Edward J.Janger,Tracing Equity: Realizing and Allocating Value in Chapter 11, 96 TEX. L. REV. 673をもとに進めていく。申請者は、来年号の民事訴訟雑誌(令和3年10月締切)において、同論文を紹介論文として取り上げることを予定している。同論文は連邦倒産法におけるプロシーズの扱いを詳述しており、日本法に対しても一定の示唆を有すると考える。 さらに上記論文紹介の寄稿前後には、以上のテーマについての関西民事訴訟法研究会での報告を予定している。報告では、同論文を踏まえたうえで近時の日本の判例を解釈することを検討しており、可能であれば同報告に基づき、上記民事訴訟雑誌への論文紹介とは別に、アメリカ法を踏まえての日本法の解釈について論じたものを九州大学が刊行する法政研究に寄稿する。 本研究ではアメリカ退職年金についての研究を行う予定であった。しかし、関連する判例、学説とも膨大であったこと、および、日本、アメリカ双方の退職年金制度についての十分な理解が必要であることをふまえ、本課題では見送ることとした。
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Causes of Carryover |
物品購入に伴う端数。 使用計画:次年度請求分の物品費に含めて使用する。
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Research Products
(1 results)