2018 Fiscal Year Research-status Report
上場会社役員の報酬規制の在り方:適切なインセンティブ付与のための比較制度研究
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18K12690
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
原 弘明 関西大学, 法学部, 准教授 (70546720)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 報酬 / 取締役 / 会社法 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、比較制度研究の前段階として、日本における株式会社取締役報酬規制の現状把握に努めた。日本法においては報酬等に関する会社法361条のほか、取締役の解任に正当な理由がない場合に損害賠償を認める339条2項が存在する。もっとも、後者の損害賠償請求の範囲は、解任されなければ得られていたであろう報酬額に限られるとするのが通説・裁判例の趨勢である。また、会社法制定前の有限会社法における取締役は任期の定めがないことも可能であり、そのような取締役についての339条2項の解釈は揺れている状態にある。以上の現状に鑑みて、2018年度の研究成果は、個別の判例評釈を通した日本法上の制度の分析が中心となった。 具体的には、原(2018)では、非公開会社である取締役会設置会社における代表取締役の選任・選定を株主総会で行える定款規定の有効性が争われた、最決平成29年2月21日民集71巻2号195頁の検討を行った。日本の会社法における非公開会社のコーポレート・ガバナンスは種々の未検討の問題を含んでいる。本論点も会社法の制定前後で議論に若干の変化が見られるため、本研究に広い意味で関連するものとして検討した。 原(2019)では、(代表)取締役を解任された者が損害賠償を請求した場合の、解任の正当な理由と損害賠償請求権の範囲について示した東京地判平成29年1月26日金判1514号43頁の検討を行った。前述の通り、会社法339条2項の損害賠償の範囲は得られるはずだった報酬額に限られるとされるが、本件ではその特約規定があった。裁判所は結論として従前と同様の解釈を採用し、研究代表者も当該事案のもとでは妥当な処理と考えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在のところ、当初の計画における比較制度研究には着手していない状況にある。他方、日本法における現状については、狭い意味の取締役報酬制度に限らず、取締役の解任時の損害賠償も併せて考察する点で当初より広い範囲を渉猟している。 以上は、比較制度研究という一面からすれば当初計画より遅れをとっているとの評価もありうる。しかしながら、比較制度研究を通じた法学研究の要は、結局日本法の現状・未来に資する分析を行えるかどうかにかかっている。本研究の1年目が当初計画に比して、より日本法の現状分析を深化させることができたことには意義があり、結果として当初計画と同等程度の進捗状況にあると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
株式会社の取締役報酬規制と、解任時の損害賠償の関係は国によって異なる。初年度の研究成果は、後者にも、(当初計画では認識が十分でなかったものの)取締役報酬規制の参考になる部分が多く含まれていることを明らかにした。 取締役解任時の金銭給付は、アメリカの敵対的企業買収時におけるゴールデン・パラシュートのような特殊なものも知られている。もっとも、本研究が想定する、通常の取締役報酬規制の範疇からは除外してよいものと思われる。むしろ検討すべきは、取締役が当初想定された任期を遂げることができず途中で身分を失った場合の処理についての比較制度研究である。既にイギリス法については日本でも相当の研究がすすんでいるように思われるが、最近の取締役報酬規制に関する日本法の研究の多くは、コーポレートガバナンス・コードを意識した取締役報酬の個別額の決定・開示あるいは決定方針のあり方に向けられている。つまり、取締役がイレギュラーな形で身分を失う場合については、制度変革が著しいイギリス法についても、他の法域についても十分な検討が行われているようには思われない。 2年目以降の本研究では、まず取締役が身分を失った場合の報酬の取扱いについて、先行研究を基礎としつつ、内容のアップデートを行う。その上で、最近の先行研究が取り組む、報酬個別額の決定・開示というスタンダードなテーマとあわせて、本研究の独自性を明確にする。
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Causes of Carryover |
研究資料とする図書の刊行状況等に鑑みて、発注を調整したため。イギリスの会社法関連の制度改正もめまぐるしく、購入を手控えたものもある。2019年度にその分もあわせて発注する。
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Research Products
(3 results)