2019 Fiscal Year Research-status Report
特許法における当業者概念の具体的意義と機能――比較法的観点から
Project/Area Number |
18K12692
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
西井 志織 名古屋大学, 法学研究科, 准教授 (80637520)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 特許権 / 当業者 / 侵害 / クレーム解釈 / 実施可能要件 / 進歩性要件 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度も、英国における当業者概念についての研究を主とした。英国の特許関係訴訟(特許の有効性が争われている事案のみならず、侵害のみが争われている事案も含む)では、判決文の早い段階で、その事案における当業者(「特許の名宛人」)とこの者のcommon general knowledgeが同定されている。そのため、従来から、当業者が全ての事項(特に、解釈及び開示十分性要件と非自明性要件)で同じと解されるべきか、一般的に当業者はチームでもよいが具体的事案においてその組成はどのように認定されるか、common general knowledgeと単なる公知技術との違い等について、裁判例の蓄積がある。これらの分析を通じて、判例学説で当業者論の展開が見られない日本法につき検討するのに重要な視点を見出すことができた。これに、日本の実務家との意見交換から得た認識・知見を加えて、日本法(特に、特許実用新案審査基準における、29条2項と36条4項1号の当業者の定義の異同、当業者はチームでもよいとされていることの意義、技術常識・周知技術・慣用技術の語の関係等)について、英国法と照らし合わせながら検討した。以上について、検討結果の公表の準備を行っている。 また、クレーム解釈は当業者の視点からなされるべきものであるところ、日本の判例通説では出願経過資料もクレーム解釈の資料の一つとされている。2種類の手法で出願経過参酌を行った1つの裁判例について検討し、評釈を学習用教材(「特許判例百選」)に公表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、現状分析のための基礎的な研究を行う計画であった。外国法については文献調査をもとに、また、日本法については実務家・研究者との意見交換も行って、検討を進めることができているため、おおむね順調に進展していると評価してよいものと考える。 ただし、2020年に入ってからは、2月に利き手の肘を骨折したこと、及び、新型コロナウィルス感染拡大の関係で、研究会での報告を延期させていただいたり、出席予定だった研究会が中止になり意見交換を行えなかったりした。この部分は2020年度に、状況の許す限りで取り戻していきたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
まずは現状分析のための基礎的な研究を続行する。外国法については、引き続き、資料収集と分析を行い、成果が一定のまとまりになった時点で公表する。 日本法については、手段を工夫し、状況が許す限りで、実務家との意見交換を引き続き行う。外国において多局面で当業者論が果たしている機能が我が国では他の(いくつかの)概念により代替されている可能性について、広く実務家の率直な認識を知ることが不可欠と考えられるためである。これにより得られた視角から裁判例(や審決)を再度分析し、そのような代替手法の有無、内容、利点及び限界につき、国内外の研究者との議論も通じて理論的検討を行う。
|
Causes of Carryover |
【理由】図書については、和書・洋書を他の経費で購入することができたり、有難くも献本していただいたりしたため、本予算を予定ほど執行しなかった。また、旅費については、怪我や新型コロナウィルス感染拡大等の理由で、当初予定していた出張(研究会参加)を行うことができないことが複数回あった。 【使用計画】2020年度以降の研究に必要な図書に加え、社会の状況が変化したことにより必要となった物品の購入をさせていただく。今後の研究の推進方策に記載したように、実務家・研究者と、関連し得る事項を不足なく視野に入れた意見交換を行う必要があるため、新しい生活様式のもとでも可能な意見交換を模索し、実施していく。
|
Research Products
(1 results)