2020 Fiscal Year Research-status Report
特許法における当業者概念の具体的意義と機能――比較法的観点から
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18K12692
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
西井 志織 名古屋大学, 法学研究科, 准教授 (80637520)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 特許権 / 当業者 / 保護範囲 / (クレーム)解釈 / 開示(実施可能)要件 / 非自明性(進歩性)要件 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度も、引き続き、英国における当業者概念について、日本法との比較の観点から研究した。一般に、英国の特許関係訴訟では、特許の名宛人は当業者であるという認識に基づき、係争特許発明に関する「当業者」とその者が持つ「共通の一般的知識」が、各要件(開示十分性、非自明性等)・各問題(クレーム解釈等)を検討する共通の前提として同定される。これは、当業者を特に同定せず、直接に各要件・各問題の(主体以外の)要素で個別に判断していく日本の実務と対照をなすのだが、英国裁判例の分析を進めると、英国の実務は想定よりも複雑であることが判明した。ほとんどの場合、当業者は全ての事項で同じであると考えられているものの、一定の場合(発明がart changingである場合等)には、解釈・開示十分性と非自明性とで必ずしも同じではないとされている。さらに、①関連する分野(relevant art)、②当業者の「チーム」性、③当業者の技能・属性、④当業者に帰属せしめるべき共通の一般的知識といった論点について、蓄積された裁判例の分析を行ったところ、特にチーム性の問題は、チームの組成、リーダーの存否、リーダーと他メンバーの関係等を巡って複雑な様相を呈していることが判明した。日本ではチーム性と実施可能性要件・進歩性要件の議論は活発でないため、英国での議論がどのような実益を持つか(又は持たないか)を明らかにすることには意義がある。以上について、9月に、同志社大学知的財産法研究会で報告を行い、その後も成果公表に向けた準備を進めている。 また、クレーム解釈は当業者の視点からなされるべきものであるところ、クレームを基本として定められる「特許権の保護範囲」に関して、学習用教材(21年2月刊行の『図録知的財産法』)の一部を執筆した。そのほか、特許法全体に目を配るなかで、審決取消訴訟の当事者適格の問題にも取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Covid-19の影響により、研究資料の入手が予定通りに行えなかったり、研究者・実務家との意見交換を平時のように行うことができないなどの問題が生じた。また、研究開始時には特許法の基本構造に則ったクリアーなものと想定していた英国の実務が、実際は容易に整理・把握し得るものではないことが、裁判例の調査・分析を進めるにつれ明らかになったため、予定したよりも長い期間を英国法研究に割くこととなった。しかし、現在の社会状況下で遂行可能なサイズへと課題を絞り込む現実的必要性、及び、他国の実務の複雑な様相を丁寧に描き出し、その背景や理由を明らかにすることが精確な比較法研究の基礎となることを考えると、現在の研究進捗状況は前向きにとらえてよいものと思料し、引き続き国内外の法的状況の解明に努める。
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Strategy for Future Research Activity |
現状分析のための基礎的な研究を続行する。英国法に関しては、裁判例の丁寧な読み込みを進める必要がある。2020年9月の研究会の場で、英国実務について、実体法・手続法の両観点から疑問・批判を頂戴しているところ、それらへの答えを探求することが今後の研究の推進につながる。そのうえで、外国において当業者論が果たしている機能が我が国では他の(複数の)概念に吸収・代替されているとしたら、その際に抜け落ちてしまうものがないか、それとも我が国の手法にむしろ利点があるかについて、状況が許す限りで実務家・研究者との意見交換を行いながら、比較検討する。
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Causes of Carryover |
【理由】毎月の関東・関西の研究会に出席するための旅費を計上していたが、Covid-19の影響で、2020年2月以降は研究会が全て中止又はオンライン開催となったため、全く使用しなかった。オンライン研究会での報告・意見交換を円滑に行うために必要となった物品や、必要な図書を購入させていただいたが、図書については、他経費で購入できたり有難くもご恵贈いただいたこと、また、購入予定の書籍の刊行が遅れたこと等から、本予算を予定ほど執行しなかった。 【使用計画】2021年度の研究に必要な図書に加え、引き続き、研究環境の変化に対応するための物品の購入をさせていただく。「今後の研究の推進方策」に記載したように、実務家・研究者と、関連し得る事項を不足なく視野に入れた意見交換を行う必要があるため、現在の状況下でも可能な手段を模索し、実施していく。
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Research Products
(2 results)