2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K12694
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
小谷 昌子 神奈川大学, 法学部, 准教授 (80638916)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 医師の裁量 / 患者の自己決定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、《個々の患者にいかなる診療を提供するか=診療の内容》はどのようにして決されるべきで、医師は個別具体的な診療内容の決定において裁量を有しているのか。また、医師が裁量を有しているとして、これはどのように行使され、また、医プロフェッション内・外からいかなる制約を受けるのかを明らかにすることを目的としている。 本年度は、上記、とくに、医師の裁量と患者の自己決定の関係を明らかにする一助として、患者の希望と医師の裁量に関する論文を執筆した。 この論文においては、患者に診療方針等につき希望があったことが認定されていた場合の医師の法的義務につき判示する日本の最高裁判例を参照し、患者が有する治療方針または療法に関する希望にいかなる意味があると裁判所が考えているのかを明らかにした。すなわち、裁判所は、医師に対して患者の希望に従い検査や治療を実施する義務を課すことはしない。しかし、患者による希望の表明は、患者にとっての重要事項、すなわち説明の必要性を増す要因があることを医師が知るためのきっかけになりうる。その結果、通常説明すべき事項に加えて、患者にとっての重要事項につき説明義務が生ずることがありうることを指摘した。 そのうえで、命にかかわりうる疾患であり、患者の生き方をも左右しうる悪性腫瘍の治療方針の決定に着目し、医師の専門的判断と患者の希望や自己決定との関係につき、日本の下級審裁判例をもとに考察した(本論文は現在校正中のため結論の詳細に関わる記載は控える)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は、現在校正中でまだ公表には至っていないものの、本研究の主たる目的である医師の裁量と患者の自己決定との関係につき裁判例に基づく考察を進めることができた。もっとも、アメリカにおける Shared decision making: SDM や、医師の専門的判断における診療ガイドラインの意義など、積み残しも多くあった。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、本研究計画における最終年度であり、2019年度に積み残したことについて考察を深める予定である。すなわち、アメリカにおける Shared decision making: SDM について、これまでの議論(とくに、法学分野における議論)を精緻に辿り、日本への示唆を得たいと考える。
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Causes of Carryover |
研究計画にやや変更があり、日本の裁判例を中心に分析を行ったため、資料費が予定よりかからなかった。また、年度の終盤に予定されていた研究会が感染症の感染拡大に伴い中止となり、使用計画と実際の使用額が異なる結果となった。 次年度は、予定通り文献調査などを行うこととしており、資料費などを中心に研究費を使用する予定である。
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